特別支援学校とは?気になる学習指導要領『遊びの指導』って?

学校選びの選択肢としてよく耳にするようになった「特別支援学校」。名前は聞いたことがあるけれど…具体的に、通常の学校とどう違うのか、実はよく知らない、なんてことはありませんか?学習指導要領をわかりやすく紐解き、実際に通う子どもたちが受けられるサポートやその教育環境を詳しく見ていきましょう。

特別支援学校とは

そもそもの特別支援学校の目的ですが、学校教育法72条によると

特別支援学校は、視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者(身体虚弱者を含む。以下同じ。)に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施すとともに、障害による学習上又は生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を授けることを目的とする。
引用:特別支援教育について|全国訪問教育研究会

となっています。これらの身体や心に障害を持つ子どもたちが通い、幼稚部・小学部・中学部・高等部にわかれています。基本的には幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準じた教育を行うほか、それぞれの障害やそれゆえの生活上の困難を克服し、自立を促すための教育が行われています。

元々は『盲学校』『聾(ろう)学校』『養護学校』という名称で障害ごとに区分されていましたが、2007年の学校教育法一部改正により『特別支援学校』に一本化されました。

これにより、複数の障害を持つ子どもに対し必要な援助を行うことが可能になったほか、特別支援学校だけでなく、近隣の学校に対し『特別の支援を必要とする児童、生徒又は幼児の教育に関し必要な助言又は援助を行う(学校教育法第71条の3)』という地域における特別支援教育のセンター的役割も担うようになりました。

子どもたちの障害の多様化に伴い、ひとりひとりのニーズに応じた適切な教育が行えるよう、また学校同士、教育現場と医療・福祉部門の連携を深め充実した支援を実現できるよう新たな教育制度が導入された形となります。

学習指導要領『生きる力』から見る特徴

個に応じた教育

一口に幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準じた教育を行うと言っても、様々な障害を持つ子どもが学ぶ場であり、教科書やその学び方において個々の障害やそれにより生じる困難に対しての支援が必要となります。また、その障害を持って『社会を生き抜く力』を身につけるためのプラスαの教育も行われています。

視覚障害者に対して

点字教科書や拡大文字教材、白黒反転した教材などそれぞれの見え方に応じた教材を使用します。物を手で触って形や大きさなどの情報を得たり、聴覚(音)や嗅覚(におい)などほかの感覚器官からの情報をヒントに、身の回りの状況を予測したり確認したりする学習を行います。

また、点字の読み書きや白杖を使って歩く学習を行い、生活に般化できるよう支援を行います。

聴覚障害者に対して

幼稚部では補聴器等を活用して聞こえのハードルを下げ、言葉によるコミュニケーションを活発化することで、発語・理解語両方の言語力の向上を図ります。小学部からは、言語指導や音楽の教科書などを活用して基礎学力の定着を図ります。同時に、言葉の読み書きや抽象的な言葉の理解を深める学習も行います。

発達段階や生活環境等に応じて指文字や手話等を活用するなど自立に繋がる学習に力を注いでいます。

肢体不自由者に対して

日常的に車椅子や杖を使用する子どもも多く通うことから、スロープや手すりの設置、トイレや出入り口等、校舎はバリアフリーに配慮された設計がされています。自立活動に特に力を入れており、教員の補助のもと運動活動を行い動きの改善を目指すなど、コミュニケーション力を養う活動を行います。

また、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアを必要とする子どもも多いことから、看護師のサポートのもと医療と連携した教育を行います。〈医療的ケア実施のための看護師〉の項も参照してください。

病弱者に対して

基本的には一般の小学校・中学校と同じ強化学習を行います。病気などを理由に入院・転校を余儀なくされた子どもについては、必要に応じ入院・転校前に使用していた教科書を用いて指導します。

自立活動では、身体の健康維持・管理はもちろんのこと、病気に対する不安や自己肯定感の低下などに対する精神面へのアプローチも行います。継続して医療と連携した生活管理が必要な子どもや入退院が継続する子どもに対しては、学習に遅れが生じないようグループ・個別指導など柔軟に指導形態を変えて対応することもあります。

また通学するのが困難な子どもに対しては、入院・通院先の病院や自宅などに訪問して指導を行うこともあります。

知的障害者に対して

ひとりひとりの障害の状態(言語・運動・知識・社会性など)に応じて、学校生活の中で体験しながら学ぶことを重視した指導が行われます。小学部では、科目学習に加え、日常生活で必要な動作や言葉、ルールなどの指導も行います。

中学部ではそれらをさらに発展させるとともに、集団の中でのコミュニケーションや、職業生活を見据えた基本的なことがらの学習なども行います。

教育課程の編成

特別支援学校では、幼稚園・小学校・中学校・高等学校に準ずる教育を行うとともに、障害による種々の困難を改善・克服するために「自立活動」という特別な指導領域が設けられています。

特別支援教育の柱となる『自立活動』

特別支援学校小学部・中学部の学習指導要領第7章において、自立活動の目標はこう定められています。

個々の児童又は生徒が自立を目指し,障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う。
引用:文部科学省

一般の小学校・中学校に通う子どもたちと同様に、年齢に応じた知識・教養を身につけ社会性を養い、将来の進学・就職に向けた科目学習ももちろん行います。それに加えて、特別支援学校に通う障害を持つ子どもたちに必要なのが『自立して生きる力』なのです。

それはときに、自身の命を守る行動・知識であったり、困難な場面で助けを求める方法であったり、自分らしさや自信を養うものであったり様々です。『自立して生きる力』が具体的に何を指すのかはその子が持つ障害・困難さ・環境により異なります。

学習指導要領では、自立活動の内容を

  • 健康の保持
  • 心理的な安定
  • 人間関係の形成
  • 環境の把握
  • 身体の動き
  • コミュニケーション

とし、子どもひとりひとりに作成される指導計画をもとに、指導を実施していくものとしています。

個が持つ力と環境に合わせた『指導計画』

自立活動の指導を実施するにあたり、事前に個々の子どもの発達段階や障害の状態、年齢、生活環境や得られるサポート等を把握し、現状を評価(アセスメント)した上で個別に指導計画の作成を行います。

長期的・短期的な視点から指導について目標が設定され、目標を達成するために必要である指導内容をスモール・ステップで段階的に取り上げます。

ひとりの子どもに複数の支援者(教員、養護教諭、看護師、医師等)が関わる中で、同じ目標に向かって一貫した支援が行えるようにするためでもあり、支援者にとっても子ども自身にとっても達成度が実感でき、自己を肯定的にとらえることができるようにするためでもあります。

よって指導計画の作成にあたって、客観的なアセスメントのほか、本人の興味関心を把握し意欲を高める・自発的な行動を引き出す視点や、困難の改善・克服だけでなく強みを伸ばし生かす視点も重要になってきます。

各教科・道徳・英語活動

自立活動以外の教科については、基本的には小学校・中学校・高等学校に準じて指導が行われますが、その子の障害の状態や経験に応じて具体的に指導内容を設定していきます。

障害の状態に応じ必要と判断された場合には、各教科・道徳・英語活動の内容を前学年の内容を用いて指導したり、それらの教科のかわりに自立活動を主として指導をしたりすることも可能です。

どんな先生が教えてくれるの?

どんな先生が教えてくれるの?

特別支援学校教諭

特別支援学校の教諭は、教員免許状(幼稚園・小学校・中学校・高等学校)のほか、特別支援学校の教員免許状の取得が原則となっています。2007年の学校教育法の一部改正に伴い、学校名称が一本化されたのと同時に、免許状も特別支援学校の教員免許状に一本化されました。

特別支援学校教員の免許状を取得するためには、いくつもの障害に関する基礎的な知識の習得と、特定の障害(例えば視覚障害について)に関する教育について専門的な知識・技能の習得が必要になります。

これと異なり、特別支援学級や通級においては、小学校もしくは中学校の教員免許状を取得している教員が、指導を担当することができます。

医療的ケア実施のための看護師

日常的に吸引や導尿、酸素管理、経管栄養などの医療行為が必要な子どもが多く通う性質上、特別支援学校の保健室には看護師が配置されており、子どもたちが健康・安全に学校生活を送るためのサポートをしています。

また、看護師と連携することにより、一定の研修を受講した教員が協力して医療的ケアを行うことも可能になりました。その場合においても、個別のケアマニュアルを作成する、医師等といつでも相談できる体制を整備するなど医療安全を確保するための十分な措置が講じられています。

知っておきたいポイント!入学から卒業後まで

特別支援学校に入学するには

入学までの大まかな流れをご紹介しますが、手続きや対応窓口は地域によって異なりますので、詳しくはお住まいの地域にて確認してください。

入学までの流れ

学校についての情報収集

お住まいの地域の教育委員会へ問い合わせる、ホームページを参照するなどして特別支援学校や特別支援学級を持つ学校を調べましょう。実際に通うことを想定して送迎の有無等も見ておくと安心です。

就学説明会

通常学級・学校への就学に不安のある子どもについて、幼稚園・保育園や発達支援センターが『個人調査票』『就学に関する調査票』を作成します。入学が決まった際に学校への引き継ぎの役割も果たす書類になります。

これをもとに、教育委員会が該当する子どもの保護者向けに就学説明会を行います。各種学校・学級で行われている支援や、就学相談・手続きの方法などの説明がなされます。

就学相談

就学相談員と保護者との面談を通して、その子に合う就学先を決定します。子どもの状態をしっかりと把握するため、検査が行われたり相談員が園を訪問したりすることもあります。診断書や療育手帳等、医療機関にかかった書類があれば持参しましょう。そして各学校の教育環境と照らし合わせて最適な就学先を決定していきます。

これに保護者が同意すれば就学決定となりますが、同意できない場合は再度相談することもできますし、最終的には保護者の意向が優先されます。入学後の子ども自身・保護者の負担が少なくなるよう、子どもの現状を正確に伝えましょう。

就学前健康診断

就学約6ヶ月前に、健康診断が行われます。身体検査のほか知的発達の検査も行われます。保護者とは別れてほかの子どもたちと同室で行うことになるので、健診時に介助が必要な場合は事前に相談しておくと安心です。

入学通知書の送付

健診後に入学通知書がご家庭に送付されます。区を超えて就学される場合などには手続きが必要な場合もあります。

発達障害がある子の選択肢

特別支援教育は障害のある子どもひとりひとりの教育的ニーズに応じた支援を行うことに重点が置かれているため、障害のある全ての子どもを対象とするものです。特別支援学校だけでなく、特別支援学級や通級制度を利用するなど、多様な教育環境が用意されています。

また、特別支援学校の就学基準に該当したからといって、必ずしも特別支援学校に入学しなければいけないかというと、そうではありません。その子が持つ強みを生かし意欲的に学べる環境を選択しましょう。

特別支援学校の教育環境とは

少人数のクラス編成

特別支援学校では、ひとりひとりが持つ障害やそれによる困難にきめ細かな指導・支援を行うため、少人数でクラスが編成されます。小学部・中学部の1クラスの標準人数は『6人』とされており、文部科学大臣が定める障害を2つ以上併せ持つ子どもで学級を編成する場合は『3人』とされています。

また2011年時点での1クラスの平均は3人となっています。

障害の程度によって、自力で歩行することが困難な場合や、生活動作に個別の支援が必要である場合は、子ども1人に対し1人の教諭が配置されることが多く、1クラスの人数に多少の変動はあれど必要な支援の手は備えられている環境になります。

『遊びの指導』はなんのため?

『遊びの指導』は『領域・教科を合わせた指導』と呼ばれ、前述の各教科・道徳・特別活動及び自立活動の全部または一部を合わせて行うことができるものです。教育課程の編成にあたって、子どもの障害の状態に応じて組み込むことができます。

遊びが子どもの発達を促すために重要であることはもちろんですが、その本質は子どもが『自ら遊ぶ』ことにあります。ものや人との関わり、コミュニケーション、身体の動きや感覚、認識や想像に関することを意欲的に学ぶ重要な活動です。支援者は、子どもがより安全に・より楽しく遊びに興じることができるよう支援していきます。

交流及び共同学習

障害のある子どもがその障害に臆することなく、地域でいきいきと活動し自分らしく生きる上で、障害のない子どもとの交流及び共同学習を通して双方の理解を深めることが重要になります。また子どもだけでなく、保護者や地域の人々の特別支援教育に対する正しい理解を得るための貴重な機会でもあります。

特別支援学校と一般の小学校・中学校との間で、運動会などの学校行事や総合学習をはじめとする一部教科を合同で行う活動や、作品の交換やインターネットを介した間接的な交流も行われています。

また、特別支援学校の文化祭などの行事に周辺地域の人々を招待し触れ合う機会としたり、逆に特別支援学校の子どもたちが地域のイベントに参加したりする場合もあります。

高等部における職業教育

高等部では、普通科の教育のほか、子どもの適性や希望に応じた職業教育が行われています。家庭生活・職業生活・社会生活に必要な知識・技能・態度などの指導を行うほか、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・理学療法士をはじめとする国家資格の取得を目指した教育や、機械・被服・情報デザインなどの多岐にわたる職業学科が設けられています。

特に肢体不自由者に対しては進路指導も重視しています。企業や社会福祉施設の協力を得て、職業生活を体験し進路選択の一助となるような実習を積極的に取り入れています。

卒業後の進路

特別支援学校の高等部卒業後の進路としては、全体の約7割の子どもが社会福祉施設等(児童福祉施設、障害支援施設等、更生施設、授産施設、医療機関)に入所・通所しています。そのほか、近年は筑波技術大学等の高等教育機関への進学を目指す生徒や理容師・歯科技工士・調理師等の資格を取得して職業自立を果たす生徒がいます。

ここで一点注意しておきたいのが、特別支援学校の高等部を卒業しても『高卒』の資格は取れないという点です。しかし『大学受験資格』は得られるため、特別支援学校卒業者が進学に際して不利になる、とは一概には言えません。

就職においても、『週3日から』『1日3時間の短縮勤務』など、その子の特性に応じた斡旋が可能で、非正規雇用で入社しのちに正社員へ登用される場合もあります。また、学校内に限らず地域の特別支援教育のセンターとして、教育・福祉・医療や労働等と連携し、乳幼児期から学校卒業後まで一貫した相談支援体制・整備の充実を図っています。

その子がのびやかに学べる学校を

情報にあふれ、教育を自由に選択できる時代です。相談機関を利用したり、実際に見学に行き雰囲気を体験するとより具体的なイメージができるのではないでしょうか。また、大人だけで決めてしまわず、子ども自身の声を聞くと決め手が見つかるかもしれません。

学校=生活の場。子ども自身も、その家族にとっても、安心してのびのびと生活できる環境を、家族みんなで考えてみるとよいのではないでしょうか。

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