療育手帳とは?申請方法やメリットを知り正しく活用しよう!

知的障害を持つ方が取得できる『療育手帳』。取得することで受けられるサービスや割引がたくさんあり、障害を持ちながら社会で生きる上で本人やその家族への大きな支えとなっています。具体的なサービスのほか、交付の対象や判定方法、申請から取得までの流れをご紹介します。

療育手帳とは

療育手帳とは、知的障害を持つ方が取得できる障害者手帳です。法で定められたものではなく、各都道府県・政令指定都市などの自治体から発行され、その手続きや受けられるサービス、判定基準なども自治体によりちがいがあります。療育手帳を取得すると、一貫した支援が受けられるようになり、さまざまな福祉サービスを受けられるようになるなどのメリットがあります。

療育手帳の対象となるのは?

おおよそ知能指数であるIQ70〜75以下の方を対象に療育手帳を交付する自治体が多いと言えます。しかしIQだけではなく、日常生活における困り感等のヒアリングを行い、生活上の困難さを総合的に判断して交付する自治体もありますので、IQだけが基準になるわけではありません。『障害程度の判定基準・項目は?』の項でより詳しく解説します。

療育手帳の名称は『愛の手帳』などさまざま

全国的には療育手帳と呼ばれていますが、東京都では『愛の手帳』、埼玉県では『みどりの手帳』と呼ばれるなど、異なる名称をつけている自治体もあります。

療育手帳の取得・申請方法

療育手帳の取得・申請方法も自治体によって異なりますが、おおまかな流れは同じです。

療育手帳の申請の流れ

療育手帳の申請はおおむね以下の流れになります。

  1. 申請に必要なものを準備
  2. 窓口やホームページで必要なものを確認しましょう。申請を迷っている場合はまず市区町村の障害福祉担当の窓口に相談に行きましょう。

  3. 市区町村の障害福祉担当の窓口にて療育手帳の申請、障害程度の判定の予約
  4. 取得までの説明も受けられます。

  5. 児童相談所もしくは知的障害者更生相談所にて判定
  6. 自治体指定の心理判定員・小児科医などによる面接・ヒアリングが行われます。

  7. 療育手帳の交付
  8. 判定に基づいて区分が決定され、療育手帳が交付されます。

どこで申請する?

交付を希望する方が18歳未満の場合は児童相談所、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所などで判定を行います。判定には事前の予約が必要です。自治体の障害福祉担当の窓口に相談しましょう。窓口で申請・取得までの説明を受け、申請に必要な書類を受け取りましょう。

申請に必要なもの

申請には以下のものが必要になります。また、生活上の困難についてのヒアリングがある場合があるので、本人のことをよく知っている人が判定に同伴するのが望ましいです。

  • 療育手帳交付申請書…自治体の担当窓口でもらえるほか、ホームページからのダウンロードや郵送が可能な場合もあります。
  • 顔写真…規定のサイズ(縦4cm・横3cmの場合が多い)を確認しましょう。判定の際に撮影してくれる場合もあります。
  • 印鑑…申請書が自著の自治体では不要の場合もあります。
  • 医師の診断書や通知表など…自治体により異なります。そのほかに取得している手帳などがあれば持参するとよいでしょう。

取得までにかかる期間は?

相談・申請を行なってから約1〜2ヶ月で療育手帳が交付されます。郵送などによって手元に届くことが多いです。

障害程度の判定基準・項目は?

自治体ごとの基準に基づいて、知能検査により算出される知能指数(IQ)と、日常生活に関するヒアリングをもとに判定されます。幼児の場合は知能指数(IQ)のかわりに発達指数(DQ)を用いる場合もあります。知能検査の方法には『ビネー式知能検査』『ウェクスラー式知能検査』などの種類があり、判定を行う児童相談所などが年齢に応じて検査方法を定めています。

このIQ・DQが、低いところでは70以下を基準としている自治体もあり、これを超える場合には原則として療育手帳の交付の対象とはなりません。ただし、一部自治体ではIQ・DQが基準値を超える場合においても、自閉症などの診断がおりていれば交付対象となる場合もあります。

ヒアリングは、日常生活において周囲の援助を必要とする程度を判断します。日常生活動作や会話、読み書き計算などの処理能力、職業生活などの各生活場面における自立の程度をヒアリングし総合的に判定されます。

不服申し立てと再判定

判定の結果、療育手帳の交付の対象とならなかった場合や、判定(区分)結果に納得できない場合には不服申し立てを行うことができます。判定結果の通知書に手順が記載されている場合が多いです。一般的には、判定から60日以内などの期限が設けられているので確認しましょう。

ただし、不服申し立てを行なった場合でも、判定を行うのは同じ児童相談所・知的障害者更生相談所になるので、判定が変わらない場合も多いです。もうひとつの方法として、6ヶ月後に再判定を受けることができます。再判定を申し込む際には、「障害の程度が変わった」と伝えるようにしましょう。

ADHDなどの発達障害で申請する場合

原則として、療育手帳は知的障害により日常生活に困難な点があり、何らかの支援が必要な方が対象となるので、発達障害を原因とした困難さは判定の際にあまり考慮されません。特にADHDやアスペルガー症候群など知的発達の遅れを伴わない発達障害は、療育手帳の対象外となります。その場合でも、発達障害に起因する日常生活の困り感の程度や、二次障害の程度により精神障害者保健福祉手帳の対象となることがあります。

療育手帳の更新は必要?

2〜5年ごとに更新が必要な自治体もあれば、年齢が上がるごとに更新の間隔が長くなる自治体もあります。東京都の場合は、3・6・12・18歳の時点で障害の程度に変化があった場合に更新が必要となります。更新に際して障害の程度が軽くなったり重くなったりしていた場合は、判定の区分が変わることがあります。

障害判定と区分

国のガイドラインで定められているのは重度『A』と、重度以外の中軽度『B』の2区分のみですが、より細かく区分しているなど自治体によりちがいがあります。この区分によって受けられるサービスにもちがいが生じます。一般的に多く用いられる4区分は以下のようになります。

最重度(A、A1、1)

おおむねIQ20以下の最重度の知的障害。
基本的な日常生活動作や会話などの意思疎通において部分的または全部に他者の支援が必要である、読み書き計算などの処理能力に乏しいなどがあります。

重度(A、A2、2)

おおむねIQ35以下の重度の知的障害。
基本的な日常生活動作やごく簡単な会話であれば可能だが、部分的に支援を必要とする、読み書き計算などの処理に補助が必要であるなどがあります。

中度(B、B1、3)

おおむねIQ50以下の中度の知的障害。
基本的な日常生活動作や会話ができ、簡単な読み書き計算や単純作業ができるなどがあります。

軽度(B、B2、4)

おおむねIQ70〜75の軽度の知的障害。
基本的に自立して生活できるが、抽象的思考や合理的判断に乏しい、環境の変化に適応する能力に乏しいなどがあります。

療育手帳を持つメリットとは?受けられるサービスや割引

療育手帳を取得し、申請または提示することで受けられるサービスの例をご紹介します。障害判定によって受けられるサービスの範囲がそれぞれ異なる場合や、自治体が独自に実施しているサービスもありますので、実際に利用する際は事前に発行元の自治体に確認しましょう。

保育・就学に関する補助


療育手帳を持つ本人が幼稚園に通う場合、または家族に療育手帳を持つ人がいる場合に、保育料に対する補助である『私立幼稚園就園奨励費補助金』が割り増しになります。手続きは幼稚園を通じて行い、保護者の所得による制限や、地域により異なる割引率が定められています。また、特別支援学校の高等部の進学において療育手帳の取得が必要な場合もあります。障害判定や公立・私立により異なりますが、保育園入園の優先順位が高くなることもあります。

交通機関に関する補助

新幹線

JR新幹線では、療育手帳を持っている本人とその介護者について、以下の乗車券が半額で利用できます。

  • 普通乗車券
  • 普通回数乗車券
  • 定期乗車券
  • 普通急行券

地下鉄・JR

『100キロを超える場合』など乗車距離や障害判定に定めがある場合もありますが、本人と介護者について無料〜半額になる地域が多いです。

タクシー

全国どこでも、タクシー料金が1割引で利用できます。乗車時に療育手帳を提示し「障害者割引でお願いします」と伝えましょう。一部の運転手には制度の周知が追いついていないこともあるなので、乗車時に「障害者割引は1割引ですよね?」と確認しておくと安心です。

高速道路

自動車やETCカードを事前に登録しておくことで、高速道路の料金が半額になります。療育手帳を持つ本人が運転する、または重度の知的障害者(A判定)が同乗する場合が対象になります。発行元の自治体の障害福祉担当の窓口で手続きを行います。

駐車禁止除外

A判定の場合、駐車禁止除外指定車標章がもらえます。警察署にて申請手続きが可能です。

飛行機

路線により割引率が異なりますが、大人普通運賃の約3割引で航空券を購入できます。小児の場合は、障害者割引よりも小児割引(大人普通運賃の半額)の方がお得になるので注意しましょう。また介助者や駐車場利用料金も割引になる場合があります。

医療費に関する補助

障害判定により、障害者医療費助成制度の対象になります。事前に自治体の障害福祉担当の窓口で申請を行った上で、窓口での支払いのあとに支給申請を行います。

レジャー施設の利用に関する補助

国内ほとんどの遊園地や動物園で割引サービスがあります。例として以下2つのテーマパークのサービスをご紹介します。

USJ

本人と同伴者1名の入園料が半額になります。加えて、待ち時間への配慮や駐車場優先区画が利用できます。

ディズニーランド&シー

入園料の割引はありませんが、待ち時間の間に別の場所で待機することが可能です。

その他の割引等

携帯電話(スマホ)

docomo、au、softbankの3社いずれも、名称は異なりますが障害者割引があります。各ショップで簡単に手続きでき、基本使用料が無料になる、契約解除料がかからないなどのサービスが受けられます。

NHK

受信料が全額または半額免除になります。こちらから対象になるかの確認が可能です。

税金に関する補助

所得税・住民税の障害者控除

障害判定とおおよその年収により割引額が決定します。障害者本人が納税する場合や、障害児を扶養している場合も対象となります。勤め先を通じて手続きするか、自営業の場合は確定申告の際に手続きを行います。

自動車税の割引

自動車税・自動車取得税・軽自動車税が割引になります。自治体により条件が異なります。

年金・各種給付等

特別児童扶養手当

特別児童扶養手当等の支給に関する法律で定められた国からの給付金です。20歳未満が対象となり、重度(A判定)では月約5万円、中度(B判定)では月約3万3千円が支給されます。発行元の障害福祉担当の窓口で申請を行います。

障害基礎年金

国民年金法で定められた障害者向けの年金制度で、20歳以上が対象です。年金事務所で申請を行います。重度(A判定)では月約8万1千円、中度(B判定)では月約6万5千円を受け取ることできます。

障害児福祉手当

特別児童扶養手当等の支給に関する法律で定められた国からの給付金で、20歳未満でかつ自宅で介護することが条件になります。また保護者の収入により所得制限が設けられています。重度(A判定)の方に月約1万4千円が支給されます。発行元の障害福祉担当の窓口で申請を行います。

特別障害者手当

特別児童扶養手当等の支給に関する法律で定められた国からの給付金で、20歳以上でかつ自宅で介護することが条件になります。障害児福祉手当と同じく所得制限があり、重度(A判定)で月約2万6千円が支給されます。発行元の障害福祉担当の窓口で申請を行います。

就業に関する補助

療育手帳を持っていると、障害者枠での求人に応募することができます。もちろん一般枠でも可能ですが、一般の条件で働くのが難しい場合もあるかと思います。ハローワークの求人には障害者枠が設けられています。

生きやすい社会のために

療育手帳を持つことによる具体的なデメリットはありません。しかし、家族に障害を受け入れてもらえない、障害程度が判定されるのが心理的な負担になるなどの理由から、取得を迷う方もいるかと思います。ご紹介したものは、障害を持つ人が社会に出やすく、生きやすくするためのサービスです。障害を持つ人とその家族の社会生活の幅を広げ、趣味や仕事を諦めないためにも、活用を考えてみてはいかがでしょうか。

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