近年話題の「事実婚」ってどんな関係のことを指すの?同棲との違いと失敗しないために押さえておきたい基礎知識

2016年秋に話題になったドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」で、事実婚という言葉を聞いた人も多いのではないでしょうか。主人公の2人は法律婚ではなく契約結婚、つまり、事実婚という形で2人の生活をスタートさせました。日本の有名人の中にも、事実婚を選択している方もいます。しかし、自分達の周りを見回して見るとまだ事実婚のカップルは少ないのではないでしょうか。今回は、今気になる事実婚に関して説明していきます。

事実婚とは

事実婚とは

事実婚とは、お互いに夫婦として認識はあるけれど、籍を入れずに生計を共にすることをいいます。長年付き合っているパートナーと次のステップに進むとしたら、結婚を想像する人が多いでしょう。婚活ブームもあり、多くの人が最終的に誰かと結婚し、共に歳を老いていく未来を望んでいます。

もし、結婚以外にも別の形でパートナート添い遂げる方法があるとしたらどうでしょうか。今回は、最近増えている事実婚について紹介します。

事実婚と認められる要件

事実婚として認められる要件は、以下の2点です。

  • お互いに夫婦としての認識がある
  • 周囲が2人を夫婦として認識している

そのため、籍を入れていないけど結婚している、夫婦として生活しているという意識がお互いに必要です。1人だけ結婚したつもりでいて、もう1人は結婚している意識がなければ事実婚として成立しません。

また、家族を含め周囲に、2人のことを夫婦として認識してもらうための第一条件は、以下の通りです。

  • 一緒に暮らしていること
  • お財布が一緒
  • 生計を共にすること

他には、職場の人たちからも夫婦として扱われることや、認知した子どもがいること、また、住民票が同一世帯であることなどが挙げられます。そのため、お互いに特別な関係ではあるけれど、週末だけあるいは、半同棲の状態で共に過ごしているといった場合や「生計は同じだけど居所がちがう」場合などは事実婚として認められないケースがあります。

事実婚における権利義務

事実婚と認められると「婚姻に準ずる関係」として民法によって次の法的保護が与えられています。具体的には、以下の通りです。

  • 同居・協力扶養義務
  • 貞操義務、婚姻費用の分担義務
  • 日常家事債務の連帯責任
  • 夫婦財産制に関する規定
  • 内縁不当破棄による損害賠償、内縁解消による財産分与

このように、お互いにこれらの権利義務が発生します。そのため、もし別れることになった場合は、通常のカップルが別れた場合と異なり、離婚と変わらないということを認識しておきましょう。

事実婚を証明する方法

事実婚は、民法によって「婚姻に準ずる関係」と権利義務が発生します。事実婚を証明する方法は2つあります。簡単にできる方法は、住民票移すことです。住民票を提出する時に住民票の続柄記載のところに妻(未届け)と記載することで、住民票で事実婚を証明することができます。つまり、この記載があることで住民票が事実婚の証明書になるのです。

他には、事実婚を証明するための公正証書を作成してもらうことです。公正証書とは「公証人という法律の専門家によって作成された証書」です。事前に準備しておくと、家族として手術など医療上の判断をする際や、住宅ローンを二人で組んだり不動産名義を共有にする時、また死亡保険の受取人指定の際などに迅速に手続きを進めやすくなるメリットがあります。

事実婚と法律婚の違い

事実婚と法律婚の違い

事実婚と法律婚はどのように違うのか、具体的に確認していきましょう。

手続きの違い

法律婚は婚姻届を提出し、法的に結婚を認めさせることです。そのため、「法律婚は婚姻届けを提出し、事実婚は婚姻届を提出しない」というところが一番大きな違いです。事実婚は婚姻届けを提出しないため、戸籍の移動や一般的に女性側は名字の変更などが不要です。

できること・できないこと

事実婚でできること

  • 事実婚相手の扶養に入る
  • ローンを組むこと
  • 保険や携帯料金の家族割り
  • 生命保険の受取人の指定

ただし、手続きの時に事実婚であることを証明する必要が出てくるため、事前に事実婚を証明するための公正証書を作成しておくと、ローンを組む時などの手続きをスムーズに進められます。

事実婚でできないこと

  • 配偶者控除
  • 離婚時の年金分配に制限がある

配偶者控除になることができませんが、しっかり稼いでいる女性なら配偶者控除の対象にならないため特に問題ないでしょう。

事実婚と内縁関係との違い

事実婚と内縁関係との違い

事実婚と内縁関係は同じです。内縁関係とは、事実上夫婦関係でありながら婚姻届けを出していない男女関係のことです。そのため、内縁関係と認められれば、法律上は同居、協力、扶助義務、婚姻費用分担義務、日常家事債務の連帯責任、財産分与、貞操義務など、婚姻関係にある夫婦とほぼ同じ権利・義務が発生します。

しかし、名字の変更や、子の嫡出性の推定、配偶者としての相続権などは、内縁関係だけでは認められません。また、未成年の婚姻の場合は「成年擬制」が働くため成年と扱われますが、内縁関係では「成年擬制」の効果はありません。

よく、3年で内縁関係が認められるという話を聞いたことがあると思います。しかし3年は目安でしかなく、それ以上一緒に生活していても婚姻の意思がなければ内縁関係が成立せず、3年未満であっても婚姻の意思があれば内縁関係が認められます。

婚姻の意思を対外的に証明する方法が、不動産物件の賃貸契約書で内縁の妻と記載することや、住民票で同一世帯として「同居人」と表記するのではなく「妻(見届)」「夫(見届)」と表記することで証明できます。

このように事実婚=内縁関係と言えます。

事実婚と同棲の違い

事実婚と同棲の違い

同棲は同居と同じ意味です。事実婚と同棲は当人達の意識の違いです。同棲は、あなたと彼氏の両方が「恋人関係で一緒に住んでいる」という意識があります。事実婚は、あなたと彼氏の両方が「自分たちは、一緒に暮らしているだけでなく、夫婦である」という意識があります。そのため全く別ものです。

事実婚を選ぶ理由は?

事実婚を選ぶ理由は?

有名人の事実婚として有名なのが、F1ドライバーのジャン・アレジ氏と結婚した後藤久美子さん、映像ディレクターと結婚した椎名林檎さん、実業家と結婚した萬田久子さんなどがいます。事実婚を選択した理由は色々あると思いますが、みなさん自立した女性のイメージが強い方ばかりです。

このように、女性の社会進出が増え、女性がキャリアアップして出世する女性が増えていくのに伴って、事実婚を選択するカップルが増えています。社会的に自立した女性はなぜ事実婚を選択するのか、メリット、デメリットの視点からみていきましょう。

事実婚のメリットは?

婚姻届けを提出する法律婚を選択せず、事実婚の選択するメリットをみていきましょう。

  • 夫婦別姓が認められる
    日本では、夫婦別姓が認められていません。そのため結婚すると、夫婦は同じ名字を名乗ります。通常、多くの女性がご主人の名字を名乗ります。しかし、仕事をバリバリしている女性の中には、会社や取引先などでは旧姓を名乗る女性も多いです。

    職業によっては、その選択が許されないケースがあります。事実婚を選択することで戸籍に変動がないため、名字を変える必要がないため事実婚を選ぶカップルが増えています。

  • 家制度に縛られない
    法律婚により、相手の戸籍に入ることで相手の家族や親戚から「嫁」という認識をされてしまいます。そのため、相手の家族や親族の集まりに参加した場合は、あなたの意思に関わらず、「嫁」としての振る舞いいや行動が求められます。

    事実婚であれば相手の戸籍に入るわけでも、相手の家に嫁ぐ訳でもないため、法律婚に比べると比較的自由な立場として振る舞うことができます。

  • 別れても戸籍に×がつかない
    法律婚の場合、別れること=離婚です。相手の戸籍から出て、元の戸籍に戻ります。このように戸籍の移動を伴うため、戸籍に離婚歴が残ります。事実婚の場合は、住民票に離婚歴が残りません。また最近は、再婚同士もしくは、お相手が再婚というケースが多いため、再婚の時にハードルになることは少ないとは思います。

    しかし、お相手によっては、離婚歴があることで、再婚話が進まないこともあります。事実婚を選択することで、このようなリスクを避けることができます。お子さんがいる場合、事実婚の時は親権者は母親にあるため、別れる時に親権問題で揉めることが少ないです。

  • 社会保険や公的制度を受けることができる
    事実婚であっても公的機関から夫婦として認められれば、法律婚ほど保護されませんが、ある程度は社会保険や公的サービスを受けることができます。年金や社会保険では法律婚と同じ控除を受けることもできます。

    遺族年金も受け取ることができ、携帯電話料金などの家族割の対象になるケースもあります。そのため、これらのサービスを受けるには、事実婚の場合は住民票や公正証書などで事実婚を証明する書類を作成しておくといいでしょう。

事実婚のデメリットは?

事実婚のデメリットは?

事実婚のデメリットを確認することで、あらかじめ対策を立てておきましょう。

  • 周囲の理解が得にくい
    親世代にとっては婚姻届けを出さずに、籍を入れない事実婚は理解し難いことです。家族や親戚から、なぜ籍を入れないのかと質問されるたびに説明しなければいけないという煩わしさがあります。周囲に理解してもらうためには、根気強く説明していく必要があります。
  • 子どもができた時に認知の手続きが必要
    事実婚の間で子どもができた場合は、母親との関係でしか親子関係が発生していないため、父親との親子関係を発生させるためには別途認知の手続きが必要です。
  • 税制や相続などで不利な場合がある
    法律婚の場合、税制上に配偶者控除などの優遇措置がありますが、事実婚の場合はこのような控除はありません。また事実婚の場合、夫婦間に相続関係はなく、パートナーが亡くなった場合は法定相続人の扱いを受けることができません。
  • 社会的信用が得られにくい
    例えば、旅先のホテルでパートナーが倒れて、救急車で病院に搬送され手術が必要になった場合、家族の同意が必要になります。この時にお互いの名字が異なるため、夫婦関係を認めてもらうのに時間がかかります。

事実婚の場合の税金と社会保険

事実婚の場合の税金と社会保険

事実婚の場合の税金や、社会保険の取り扱いについてみていきましょう。

配偶者控除や医療費控除などの対象になれない

婚姻関係にある配偶者がいる場合、配偶者控除や配偶者特別控除などの控除を受けることできます。しかし事実婚の場合、税制上は全くの赤の他人の扱いになるため優遇措置は全くありません。そのため、所得税法における配偶者控除や医療費控除の対象外です。

年金や社会保険の場合は扶養家族になれる

社会保険制度においては、一緒に生活している実態があれば事実婚でも社会保険上の被扶養者になれます。ただし法律婚と違い、事実婚であることの証明をしなければなりません。そのため、手続が少し面倒になります。

しかし、事実婚の時に社会保険上の被扶養者となることで、以下のメリットもあります。

  • 健康保険
    保険料の追加負担は無しで健康保険被扶養者証の発行と健康保険の給付を受けることができる
  • 国民年金
    保険料の負担なく、国民年金第三号被保険者となり国民年金に加入することができる
  • 扶養に入っていることによって事実婚・内縁関係を証明しやすくなる
    もし別れることになっても、法律婚夫婦の離婚時の分割と同様に請求が可能

このように、法律婚夫婦と同様の条件で扶養が認められたことになるため、事実婚(内縁)関係を証明するものが増えます。

事実婚で子どもが生まれた場合

事実婚で子どもが生まれた場合

事実婚関係にある2人の間に子どもが生まれた場合、それぞれの両親と子どもの関係はどうなるのでしょうか?法律婚の場合は、夫婦の戸籍があるため、その戸籍に子どもが入ります。つまり、戸籍上の父母が出生と同時に存在するため、父母両方と親子関係があります。

名字は、両親と同じ名字を名乗ることができます。当然ですが、法律婚の夫婦の間の生まれた子どもは、戸籍(法律)上の親子関係があるため、扶養や相続などの権利や義務が発生します。では、事実婚の場合はどうなるかをみていきましょう。

子どもの戸籍と父親との関係

子どもができた場合、出産届けを提出することで女性側と子どもの間には親子関係が認められます。しかし、男性側とは法的に親子関係がなく赤の他人です。戸籍上、子どもの戸籍の父の欄が空欄で、父親は不明の状態です。

法律的に男性側と親子関係と認められるには、父親が認知届けを提出する必要があります。認知届けとは、父親が自分の子どもだと認めるために届出をすることです。この手続きによって戸籍の空白だった欄を埋めることができ、法律的にも親子関係が認められます。それにより、戸籍・法律上の親子関係ができるため、扶養、養育、相続などの義務と権利発生します。

また、胎児認知という方法で妊娠中に胎児認知届を提出すること可能です。出生届の提出と同時に、戸籍の父親の欄に認知した父親の名前が入るため、戸籍の空白期間が生まれずにすみます。

昔は婚姻関係のある夫婦の嫡出子と、婚姻関係のない夫婦(事実婚はこれに該当します)の非嫡出子には、相続の面で違いがありました。しかし、今はきちんと認知届けを出して手続きを行えば、非嫡出子でも嫡出子としての扱いを受けることができます。

子どもの名字はどうするの?

父親が認知届けを出すことで、子どもは男性側と同じ名字を名乗ることができます。

事実婚の相手と別れた場合

事実婚の相手と別れた場合

事実婚の場合、婚姻届けを出していないため離婚届けを提出する必要がなく、本人同士の同居を解消すれば、事実婚を解消することができます。

事実婚にも法的保護がある

法的に事実婚として認められれば「婚姻に準ずる関係」として民法によって、法的保護が与えらえれます。そのため法律婚で離婚した場合と同じように、慰謝料や財産分与などを請求することができます。

慰謝料や財産分与を請求することができる

関係破綻の原因が一方にある場合は、他方が慰謝料を請求することができます。事実婚と法律婚は、「婚姻届をしたかどうか」という形式面での違いがあるのみで、法的に事実婚とし認められれば「婚姻に準ずる関係」として法的保護が与えられます。

慰謝料についても法律婚と同じ扱いを受けます。また、財産分与においても慰謝料と同様に権利があります。届出婚に関する財産分与の規定は、事実婚の場合にも準用されます。つまり、事実婚の期間に2人で協力して築いた財産は、事実婚解消時に公平に分配するように請求できます。

年金分割できる

事実婚でも年金分割が認められます。ただし、年金分割の対象期間は、事実婚の開始時から解消時までの期間です。しかし法律婚と異なり、いつから事実婚の状態が開始したのを証明することが困難です。そのため女性側が国民年金保険の第3号保険者の期間(つまり扶養に入っている期間)に限り、分割の対象だと定めれれています。

養育費や婚姻費用は請求できる

養育費は、子どもを育てるためにかかる費用のことです。そのため、両親が収入や資産割合によって分担する費用になります。子どもとの親子関係が認められれば、両親が法律婚、事実婚関係なく養育費を負担が必要です。

婚姻費用に関しても、法律婚と同じように請求することができます。事実婚の場合は、同居が解消した時点で事実婚の関係が破綻します。そのため法律婚の場合は、離婚が成立するまでの別居期間中の生活費として、婚姻費用分担請求を行うことができます。しかし、事実婚の場合はすでに解消している扱いのため請求は困難です。

事実婚の相手が亡くなった場合

事実婚の相手が亡くなった場合

事実婚の相手が亡くなった場合、あなたの法律的な立場がどのような扱いになるのか、確認していきましょう。

法律婚とは違い法定相続人にはなれない

事実婚の場合、どんなに長く期間連れ添ったとしても法定相続人として認めれらません。そのため相続権はありません。また、2人の間に生まれたお子さんに関しては、生まれた時点で法的に、母親との間にしか親子関係がありません。そのため、父親の相続権を持つためには認知手続きが必要になります。

事実婚の相手に遺産を残す方法

事実婚の相手は法定相続人になれませんが、生前に遺言書を準備しておくことで事実婚の相手に財産を残すことができます。また、特別縁故者として認められれば、事実婚の相手が、財産を受け取ることが可能です。

特別縁故者とは、生前に被相続人を献身的に世話をしてきたような人がこれに該当します。相続人の遺産は、法定相続人が相続することに変わりはありませんが、もし法定相続人がいない場合は、次の候補者として浮上するのが特別縁故者です。

もし、事実婚の相手に法定相続人が誰もいなければ、相続できる可能性も出てきますが、基本的には生前遺言書で準備しておくことがベストです。

遺族年金を受け取る方法

事実婚の場合、法的に遺族年金を請求できる権利があります。厚生年金保険法では、「事実婚関係にある者+生計維持関係にあった者」であれば、入籍していない者でも遺族年金を受給できる配偶者に該当するとされています。

ただし、請求することができるだけで必ず受け取れるとは限りません。日本年金機構により請求者が、内縁関係(事実婚関係)であるといえるか、生計同一関係であるといえるか審査され、認められた場合にのみ受け取ることができます。

参考元:厚生年金保険法|厚生労働省

事実婚する前に本当に自分達に合うかをしっかり検討しよう!

最近、有名人を中心に日本でも事実婚をするカップルが増えてきました。日本での婚外子の割合は2%程度なのに比べ、フランスやイギリス、アメリカなどの婚外子の割合が約半数に達しています。

日本で婚外子の割合が少ないのは、周囲の理解が得られない、父親との認知手続きの煩雑さや税制面でも優遇措置がないなど、子どもが生まれた時点で事実婚から法律婚に切り替えるカップルが多いと推測されることだと考えられます。

まだ日本では事実婚のハードルが高いです。そのため法律婚、事実婚どちらを選択するにしても、メリット、デメリットを確認した上で自分達にとってベストな選択をしてください。

参考元:厚生労働省

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