企業が必要とする社員情報の項目に扶養家族があります。扶養家族は、所得税や社会保険に関わります。その有無と人数を考慮する必要があるのです。配偶者、子ども、親など、さまざまな扶養の形がありますが、履歴書に何人と書くべきかに迷われたことはないでしょうか。本稿では、扶養家族の意味、履歴書での扶養家族数の書き方を解説します。
そもそも「扶養」ってどういう意味?
扶養とは、共に生活する家族などを養うことです。扶養している、つまり、自分の収入(一つの家計)で養っている家族が扶養家族となります。扶養家族がいる人は、扶養控除が適用されるため、税負担が軽くなるのです。
ただし、扶養家族として認められるには、一定の要件を満たしておかなければなりません。税法上か社会保険上かでもその範囲の定義が異なっています。少々複雑になりますが、きちんと区別して理解しておくことが大切です。
税法における扶養家族
扶養家族のいる人は、所得に対して扶養控除(38~63万円)が適用され、所得税が安くなります。税法上の扶養家族として認められるのは、以下の要件が満たされているときです。
- 扶養控除の対象者・年齢・控除額
16歳以上 控除対象扶養親族 控除額 38万円 19~23歳 特定扶養親族 控除額 63万円 70歳以上 老人扶養親族(同居) 控除額 58万円 70歳以上 老人扶養親族(別居) 控除額 48万円 - 一つの生計世帯で生活していること
- 配偶者、6親等内の血族、もしくは3親等内の姻族の続柄
血族例 父母、祖父母、子、孫、叔父、叔母、兄弟、甥、姪など 婚族例 配偶者とその父母・兄弟・甥・姪・叔父・叔母など - 扶養される者の年間合計所得額が38万円以下であること
※収入が給与のみの場合は、給与の額面が103万円以下 - 青色申告者の事業専従者/白色申告者の事業専従者でないこと
参考:扶養控除|国税庁
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健康保険における扶養家族
健康保険に加入していれば、扶養家族分の健康保険料や年金保険料の負担は発生しません。健康保険上の扶養家族として認められるのは、以下の要件が満たされているときです。
- 主に被保険者の収入で生計が維持されていること
- 被保険者の父母、祖父母、曽祖父母、配偶者(内縁含む)、子、孫、兄弟姉妹
※同居/別居は問わず - 被保険者の3親等以内の親族、内縁関係にある配偶者の父母、子
※同居していることが条件 - 年間収入が130万円未満であること
※60歳以上、もしくは障害者の場合、年間収入180万円未満
※かつ、同居なら扶養者収入の半分未満、別居なら扶養者からの仕送り額未満 - 上記対象者でも75歳未満であること
参考:被扶養者とは?|全国健康保険協会
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履歴書の扶養家族数の書き方
では、履歴書に扶養家族の数は、どのように記載すればいいのでしょうか。通常、履歴書には、以下のような3つの項目が設けられています。
扶養家族数(配偶者を除く) | ○人 |
配偶者 | 有・無 |
配偶者の扶養義務 | 有・無 |
扶養家族数には、自分や配偶者は含めません。
考えられる主なパターンを挙げていますので、ご確認ください。
学生の場合
扶養家族数(配偶者を除く) | 0人 |
配偶者 | 無に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
独身一人暮らしの場合
扶養家族数(配偶者を除く) | 0人 |
配偶者 | 無に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
夫婦共働き
【夫婦ともフルタイム(子なし)】 | |
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扶養家族数(配偶者を除く) | 0人 |
配偶者 | 有に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
【夫婦ともフルタイム(子ども1人は自分の扶養)】 | |
---|---|
扶養家族数(配偶者を除く) | 1人 |
配偶者 | 有に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
【自分※年収100万はパート(子ども2人)】 | |
---|---|
扶養家族数(配偶者を除く) | 0人 |
配偶者 | 有に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
【配偶者がパート※年収100万(子ども1人)】 | |
---|---|
扶養家族数(配偶者を除く) | 1人(子どものみ) |
配偶者 | 有に○ |
配偶者の扶養義務 | 有に○(妻) |
シングルマザーの場合(子ども2人)
扶養家族数(配偶者を除く) | 2人 |
配偶者 | 無に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
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両親を養っている場合
【独身】 | |
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扶養家族数(配偶者を除く) | 2人 |
配偶者 | 無に○ |
配偶者の扶養義務 | 無に○ |
【既婚で妻・子ども1人も一緒に扶養する】 | |
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扶養家族数(配偶者を除く) | 4人(両親と子ども) |
配偶者 | 有に○ |
配偶者の扶養義務 | 有に○(妻) |
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なぜ扶養家族数が必要なの?
扶養家族数は、本人のプライバシーにも関わることがらです。「仕事には関係ないのでは?」「あまり知られたくない…」このように感じられることもあるかもしれません。しかし、企業にとっては、知っておかなければならない情報です。入社後の手続きに必要となります。
具体的には、所得税、住民税、社会保険などに影響します。会社によっては、社内の福利厚生制度の対象となる場合もあるのです。
所得税
所得税は、毎月の所得から徴収されるもので、その額は、毎月の所得額によって変動するものです。上記の「税法上の扶養家族」の項目で説明していますが、扶養する家族がいると、その家族の年齢に応じて扶養控除が適用されるケースがあります。課税対象となる所得額が減るため、納付する所得税が少なくなり、手取り収入が増えるのです。
住民税
給与からは、住民税も差し引かれています。「税法上の扶養家族」の項目では、16歳以上が扶養控除の対象とお伝えしました。住民税の判定には、16歳未満の扶養家族も関係してきます。非課税限度額の算出に「扶養家族の人数」が必要となるからです。
家族構成や扶養状況によっては、人数に応じて住民税が変わることがあります。算出方法やルールが自治体ごとに決められているため、確認が必要です。
参考:住民税の非課税限度額は扶養人数で変わる。仕組みをやさしく解説|Fincy
社会保険
社会保険については、被保険者(加入者)の負担額が変わることはありませんが、手続きをしなければ、扶養家族の保険適用が有効となりません。扶養家族を一人ひとり記載して届け出る必要があるのです。
本来、扶養家族の要件を満たし手続きをしていれば、追加の保険料を負担することなく、病気やケガなどの際に保険を利用することができるのです。
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福利厚生などの社内制度
企業によっては、家族手当、子ども手当など、独自の福利厚生を設けているところもあります。各制度で対象要件が異なりますが、中には、扶養家族の人数に応じて手当が支給されるようなものも存在します。
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要件を確認して、扶養家族人数もしっかり記載!
養うべき家族がいるのであれば、しっかりと記載して、適切な手続きにつなげましょう。履歴書に書く扶養家族については、書き方が決まっているので難しいことはありません。きちんと手続きされれば、節税、控除、保険適用など、家計を助ける要素も多いです。
ただし、扶養家族にできるのは、上記で説明した各要件を満たしている人だけです。税法、健康保険の規定、企業の規定などのそれぞれ要件を、きちんと確認するようにしてください。