【医師監修】新生児に多く見られる口唇口蓋裂とは?治療方法や術後の様子、遺伝との関係性について

先天性異常の一つである、口唇口蓋裂。先天性であるがために、遺伝性があるのか大変気になるところです。また、生まれてきてからどのように対応したらいいのか、口唇口蓋裂の治療法、その後の生活がどうなるのか、日常生活をきちんと送れるようになるのかなど心配なことは多いと思います。ここでは、口唇口蓋裂に関する情報をご紹介します。

口唇口蓋裂とは?

口唇口蓋裂とは口唇裂と口蓋裂の総称です。「みつ口」と呼ばれることもあります。口唇裂は口唇の一部が裂けたようになっている状態、口蓋裂は胎児の時に、鼻と口の境目である軟口蓋あるいは硬口蓋、もしくは両方がきちんとくっつかない状態になっていることを言います。胎児の時は、もともと口や鼻の周りはうまく仕切られていません。発達の過程で仕切られていくものなのです。そのため、その発達過程の妨げになるようなものがあると、口唇口蓋裂の新生児が生まれることになります。

口唇裂は大きく3つに分類される

口唇裂とは生まれつき上唇が割れている状態のことです。唇の形が整っていないことにより、鼻の形も変形してしまいます。口唇裂は大きく3つに分類されます。
片側不完全、片側完全、両側完全です。なお、両側不完全という症状は確認できていないようです。それではひとつずつご説明していきます。

  • 片側不完全
  • 上唇の裂け目が、右側、または左側の鼻の穴に向かっている状態です。
    鼻の穴まで到達していない状態なので不完全という表現が使われています。
    裂け目が向かっている鼻の穴と、唇がひっぱりあっているような形で鼻が変形することが多いです。

  • 片側完全
  • 上唇の、右側、または左側の裂け目が鼻の穴まで届いている状態です。
    裂け目が届いている鼻の穴側の、鼻の位置が低くなり、鼻が斜めに変形することが多いです。

  • 両側完全
  • 上唇の、左右の裂け目が鼻の穴まで届いている状態です。
    左右の鼻の穴の境目周辺を除いて上唇が鼻の穴に吸い込まれているような形に見えるのが特徴です。

口唇口蓋裂と遺伝の関係

遺伝に関して、日本では16%くらい関与しているといわれていますが、両親の家系に口唇口蓋裂の人がいなくても生まれてくることがあります。
しかし、実は日本人の500人に1人は口唇口蓋裂と言われていますので、かなりの人が何らかの治療を受けているということになります。
基本的に胎児のときの発育の過程で起こることがほとんどです。遺伝的な要素はゼロではないものの、環境的な要因によって引き起こされることも確認されています。
例えば妊婦さんが妊娠中に食べ物を食べなかったり、免疫力が弱っているところで感染症になったりすることでも、口唇口蓋裂のリスクは高まります。
すでにそのような環境においた妊娠中の動物では実験によって立証されています。割合としては、口唇口蓋裂は女児より男児に多く、口蓋裂は男児より女子に多いといわれています。
これも遺伝と直接関係があるとは言いがたく、男女の発育過程の差ではないかと考えられます。

お腹にいるときから口唇口蓋裂がエコーでわかる?!

妊婦健診のひとつに、超音波スクリーニングという方法があります。この検査の際に子供が口唇口蓋裂であるとわかることがあります。定期的な妊婦検診では、他にも先天性の異常が見つかる可能性があります。この場合、わかっていても、生まれてくるまで対応することはできません。早くわかった場合、両親に告知するかどうかは、医師の判断になります。親として、生まれてくる前の検査時に知りたくない情報があれば、医師にその旨を伝えておくといいでしょう。捕らえ方は人によって違いますが、手術で改善できるものです。しかし、悪いほうに考えて不安を募らせると、妊婦の体に障り、悪循環になりかねませんので、よく考える必要があります。

超音波検査

超音波検査とは、超音波を使って胎児の発育の様子を検査するものです。
他にも臓器全般を調べるのにも使われます。超音波の反響の内容を機械が画像にして、リアルタイムでモニターに写しているので、写っているモニターを見ながら検査を行います。
X線の検査と違って被爆する心配もなく、安全性の高い検査です。情報がリアルタイムで、かつ鮮明であることから、たくさんの情報を得ることができるのがポイントです。
そのため、妊婦さんの定期健診で発育状態だけではなく、先天性の障害についてもわかるようになってきているのです。

口唇口蓋裂の治療方法

口唇口蓋裂の治療は基本的に手術になります。
生まれてきてから、手術を開始できるくらいまで大きくなってから手術を行います。
また、手術後の経過や生活についても大変気になるところです。
ここでは、手術について、そして手術後の生活についてご紹介したいと思います。

口唇口蓋裂の手術

口唇口蓋裂の手術はその部分だけの手術を行えば解決するとは限りません。
例えば、口唇口蓋裂の影響で、顎裂という症状が出ている場合はその手術も必要になります。
ここでは手術の方法や回数、期間などについてご紹介いたします。

手術方法はどんなものがあるの?

手術の方法は場所や症状によって異なりますが、こちらではいくつかの手術についてご説明します。

  • 口唇裂の手術
  • まず、口唇裂は放置しておくとどんどん広がってしまう恐れがあります。そこで、口唇裂が広がらないよう、手術まではテーピングをして保護します。
    子供が自宅で過ごすために、このテーピングは自宅で交換ができるように教えてもらうことができます。生後3ヶ月になると、全身麻酔が安全にかけられるようになると言われていますので、このころに手術を開始することが可能になります。また、1ヵ月健診が終わった後のため、他に合併症などがないかを調べて結果が出ているので、その結果で手術に問題がなければ手術をすることになります。
    複数の条件から、このタイミングで手術を行うことが多いです。手術の内容は、鼻の下から唇にかけて避けてしまっている部分を縫い合わせるというものです。縫い合わせてから1週間くらいで抜糸が可能で、抜糸から2ヶ月くらいで、縫い合わせたところにきれいな皮膚が現れます。最初は盛り上がったようになっていますが、落ち着いてくると鼻の下と唇の形が一般的な形になります。
    手術跡に傷口には保護のテープを利用したり、リテイナーという固定器具はしばらくつけたままになります。

  • 口蓋裂の手術
  • 口蓋裂の手術には、主に2種類あります。
    1才半頃行われることが多いです。ファーラー法とプッシュバック法と呼ばれるものです。ファーラー法は、口蓋の粘膜と骨膜をはがして、それぞれを中央に寄せて亀裂をなくす方法です。上顎の発育にはよいとされていますが、裂けている幅が大きいとこの方法を使うことはできません。
    もうひとつの方法は、プッシュバック法と呼ばれるものです。口蓋の粘膜と骨膜を一緒に移動させて、亀裂をなくす方法です。
    昔から行われており、言語発達に優れた治療方法です。しかし、顎への負担が大きく、顎が発達できなかったり、手術時に粘膜や骨膜で覆えなかった部分が露出した状態で、自然治癒を待たなければならないなど、不安な一面もあります。

  • 顎裂の手術
  • 顎裂は、口唇口蓋裂に伴って、歯茎が割れてしまっている状態です。唇の形に添って歯茎が割れていますので、特に上の歯に影響します。
    上の歯の土台となる骨も割れているので、一部分に歯の生える土台がない状態です。そのために歯並びが悪くなったり、歯の数が他の人より少なくなってしまうのです。
    また、噛み合わせが悪くなるなどの弊害も生じます。ですので多くの患者さんに歯科矯正が必要となっています。口唇の手術や口蓋の手術にはもともと骨格の再建は必要ありません。口蓋裂には骨の欠損を伴いますが、これを再建しなくても特に困ることはありません。しかし顎裂の手術だけは歯が生える場所であるために骨の再建が必ず必要です。
    骨が作られる手術を行うことで歯肉の切れ目が無くなり、きれいな歯並びが得られます。 歯茎の骨がないために萌出する場所の無かった犬歯が、再建された歯茎の骨の中にきちんと萌出できるようになります。顎裂は、単独で起こることはめったにありません。
    口唇裂や口蓋裂の手術を行ったとしても、この部分の治療を行わないと口腔と鼻腔に隙間のある状態になってしまいます。
    顎裂が大きくない場合は、歯科矯正を行うことで改善されます。

    歯科矯正を行う場合は、形成外科ではなく、歯科や口腔外科で治療を行うことになります。顎裂がひどい場合は顎裂骨移植術という手術を行います。手術は、骨の移植になりますが、この骨に利用されるのは、自分の腸骨や腰骨です。骨の骨髄組織を取り出して移植をするのです。移植した骨は、避けていた部分の粘膜を縫い合わせて覆い隠します。骨を移植したことによって土台ができるので、歯列矯正ができるようになります。口の中に関しては、吸収される糸を利用しているので、治療が終わったら特に何もすることはありません。早ければ手術した当日の夕食は普通に食べることが可能です。

    一方、骨を取り出した、腸骨や腰骨の部分に関しては、かなりの痛みを伴い、数日歩けなうこともあります。しかし現在は人工骨の研究も進んでおり、腸骨をとらなくてよい場合もあります。これは健康保険範囲外になってしまいます。痛みが取れれば歩くことが可能になり、1週間くらいで抜糸ができます。退院も骨を取り出したところを抜糸するタイミングとほぼ同じで、1週間程度で可能です。乳歯が生えそろう4~5才頃からレントゲン写真や歯列模型を使って手術の検討をし、6~10才で前歯や犬歯が生えそろうよう手術をしていきます。

  • 変形外鼻手術
  • 口唇口蓋裂によって変形した鼻を手術することです。
    口唇裂の手術の際や、顎裂骨移植術と同時に手術が可能な病院もあります。
    鼻の軟骨は成長している最中なので、あえて一緒に手術を行わない病院もあります。
    その代わり成長している鼻の軟骨を矯正する器具をつけておくことで、形を整える方法をとっていることがあります。
    矯正の器具はつけたりはずしたりできますが、基本的にはつけっぱなしにしておくことで効果が高くなります。

手術回数は?

1回で終わる場合もあれば、複数回に及ぶものもあります。
症状がまちまちなので、症状に応じて対応する必要があります。
また、大きくなってから、歯列矯正や顎の治療などが発生する場合もあります。
口唇裂が1回、口蓋裂が1回、顎裂が1回、鼻の手術が1回などという具合です。
歯列に関しては、乳歯から生え変わるときに影響が出ることがあり、影響が出た場合には口の中を別途治療する必要が出てきます。

手術にかかる時間や期間は?

口唇口蓋裂にかかる手術の時間は、口唇裂、口蓋裂ともに2時間ほどです。
入院期間も7日間ほどと言われています。
大体は1回の治療で7日間ほどの入院が必要と考えればよいでしょう。
また、治療期間に関しては、だいたい、生後3ヶ月から18歳が多く、顎の矯正が必要な場合は20歳くらいまで治療を続ける必要があるといわれています。
長期間にわたっての治療となりますので、家族で向かい合っていかなくてはなりません。

口唇口蓋裂の手術後

口唇口蓋裂の術後は大変気になるのではないでしょうか。
口を使ってできることがあまりできなかったはずですから、そのようなことが他の人と同じようにできるのかは、気になるところです。
ここでは、3つに絞ってご紹介します。

<手術跡はどうなるの?>

手術は何回かに分けて行われる場合があります。
基本的には外見に大きくかかわる部分の手術になりますので、手術跡が目立たないように手術してくれます。
小さいころに手術をすることで、傷跡が大きくなってからはあまり目立たないくらいまできれいになります。
一番気になる思春期には、日常生活では目立たないくらいになっているでしょう。
しかし、18歳くらいまで処置が必要な場合、そのころの手術については、20歳を過ぎても残る可能性があります。
そうならないように計画を立てて、治療を進める病院が多いので、初期の段階から相談しておくといいでしょう。

<食事はとれるの?>

口蓋裂の子供は直接授乳するのが困難でした。それは、口と鼻に空間があるがゆえに、吸い込む力がないためです。
正しくは力がないというより、空気が抜けてしまうというほうが近いかもしれません。
日本のストローのひとつを水の入ったコップの中に入れ、もうひとつを外に出した状態で二本のストローをいっぺんに吸うと、水が吸えないと思いますが、それに近い状態です。
また、口と鼻がつながっていることで、飲み物や食べ物が鼻に流れ込んでしまう状態になっていますが、手術によってこちらも改善されます。
手術ができる年齢になるまでは哺乳床という蓋のようなものを裂につけてふさぎます。
そして、手術によって、空気が抜けてしまう穴がなくなれば、ストローを吸うようなこともできるようになりますし、授乳が必要な期間に治療が終わっていれば、授乳が可能です。
また、手術後、比較的早い段階で軟らかい食事が開始されます。口の中を縫ったりした部分が落ち着き、腫れが引いてくると、普通食が食べられるようになります。
歯や顎などとの関係もありますが、噛めるようになっていれば、食事も好きなものを食べられるようになります。

<生活に支障はないの?>

言葉を正しく発音できないと、社会生活において不利な状況になります。しかし、言語療法などで言葉を正しく発音できるようにしたりすることが可能です。
その点では訓練を行っていれば日常生活に支障はないと考えられます。言葉を発するようになる2~3才から訓練を開始するのが一般的です。
口唇口蓋裂で生まれてきた人は、言語に対して不利だといわれていますが、口唇口蓋裂で生まれてきた著名人の中には、歌手や俳優、ナレーター、コメディアンなど、言葉の発音が大切になるような仕事についている人がいます。彼らの努力は計り知れませんが、このような職業につくことも努力しだいで可能になるということを知っていると、子供も努力をする価値をわかってくれるのではないでしょうか。

費用~利用できる制度の種類は?~

費用は治療の回数によって変わりますが、長期間治療を受けなければならず、定期的な検診もあるので、かなり高額になります。
市町村が実地している乳幼児医療費助成制度や自立支援医療制度、高額医療費制度などが適応されます。

乳幼児医療費助成制度

健康保険の対象になる治療に関して、義務教育就学前までの乳幼児の保護者で、乳幼児が健康保険に加入している場合は、医療保険の自己負担分が助成される制度です。助成の対象になる費用は自治体によって異なりますので、対象の自治体に確認が必要ですが、多くは3割負担が1割負担になるような措置になっているようです。また、家族の所得制限など、他にも条件がありますので、まずは対象かどうかを確認する必要があります。

自立支援医療制度

もともと、将来障害を残す疾患のある児童に対して確実に治療の効果が認められるものに限り必要な医療費を支援してくれる制度です。この対象となる障害の言語障害の中に、口唇口蓋裂が含まれているので、利用可能です。

高額療養費制度

高額療養費制度は、各月の1日から末日までで上限額の金額を超えた場合、超えた分の費用を負担してくれる制度です。世帯収入によって、上限額が異なっているので気をつけましょう。また、この制度を利用するためには、事前に認定証を手に入れる必要があります。こちらを扱っているのは、健康保険組合です。そのため、申請は子供が加入している健康保険組合に問い合わせる必要があります。費用の軽減にはなりませんが、医療費控除を申請するという方法もあります。こちらは、かかった費用に関して確定申告を行うことで、還付金が発生するものです。

すべての制度に共通しているのは、申請しないと制度を利用することができない点です。すべてを一緒に使うことはできませんが、必要に応じて申請しましょう。

口唇口蓋裂の長期治療は家族の協力が不可欠

口唇口蓋裂は遺伝あまり遺伝とは関係なく、むしろ、環境などに要因がある可能性があります。
妊娠しているときに感染症などにかからないよう注意しましょう。治療方法は、症状の出ているところを手術で治していくのが一般的です。妊娠して授乳・食事といった生命に関わるものは早期に、鼻の形成・歯列矯正など審美面はある程度成長してからと手術にも優先順位があります。治療から、訓練までを含めると、長い期間、回復のために時間を使わなければなりません。しかし、治療が終わると、日常生活に支障がないくらいまで回復します。親子でがんばる必要がありますので、辛いこともあるかもしれませんが、治るものなのできれいに治るのを信じて、治療を進めていただければいいのではないでしょうか。

3+