現在、日本では5人に1人が帝王切開により出産を行っていると言われています。過去20年間で2倍に増えている帝王切開ですが、お母さんにとってはお腹を切ることになるので怖さもあり不安もあると思います。そんな不安を少しでも解消できたらと、帝王切開についてまとめました。
帝王切開とは
帝王切開とは、お母さんか赤ちゃんの何らかの原因により通常の自然分娩が困難な場合、外科手術によって子宮を切開して胎児を取り出すことです。帝王切開が行われるのは、自然分娩だと胎児、母体、あるいはその両方に命の危険がある場合や、何らかの事情によって自然分娩が不可能な場合です。帝王切開には、「予定帝王切開」と「緊急帝王切開」の2種類があります。この2つを詳しく説明します。
予定帝王切開
予定帝王切開とは、自然分娩での出産が難しいと判断されて、分娩時のリスクを避けるために帝王切開で出産することです。あらかじめ手術日を決めて計画的に行われます。
≪予定帝王切開になる場合≫
- 逆子などの胎位異常
- 双子や三つ子などの多胎妊娠
- 赤ちゃんが巨大児
- 帝王切開の経験がある
- 妊娠合併症の併発
- 子宮筋腫の位置が悪い
- 超高齢出産の場合
- 児童骨盤不均衡
- 前置胎盤
「逆子が直らなくて帝王切開になる」というようなことを聞いたことがあると思います。正常な状態であれば、出産時赤ちゃんは足を上にして頭から産まれてきます。胎位異常とは、頭と足の位置が逆の「逆子」の状態や、赤ちゃんが横になった状態の場合に自然分娩では危険を伴うために、安全性を重視して帝王切開になることがあります。
双子や三つ子を妊娠した場合は、胎児が小さいために自然分娩に耐えられない場合や、1人が逆子になってしまうというリスクが考えられるので、予定帝王切開になる場合が多くなります。手術の時期は、赤ちゃんの人数や成長の様子などによって変わるので、お医者さんと相談しながら日にちを決めます
検診で、推定体重が4,000gを超えた場合に、難産になったりするリスクが考えられるので帝王切開になる場合があります。妊娠性糖尿病などの原因についても、お医者さんとよく相談してください。
帝王切開で出産を行うと、切開した子宮壁の箇所が薄くなり、次の出産時に自然分娩を行うと子宮破裂などのリスクが少し増えます。また、子宮の病気で子宮の筋肉にかかわる手術をした場合も同様のリスクがあり、予定帝王切開をするケースが多くなります。
母体に糖尿病や心臓疾患などの合併症があり、過度な負担をかけられない場合は、予定帝王切開をするケースが多いです。
子宮筋腫とは、子宮にできる良性の腫瘍のことです。小さな子宮筋腫であれば自然分娩が可能ですが、子宮筋腫が大きかったり、産道をふさぐような筋腫の位置であれば、帝王切開が選択されます。
超高齢など40歳を超えてからの妊娠では産道がかたくなり、赤ちゃんが通る大きさに広がらないと判断される可能性があり、事前に帝王切開となることがあります。
赤ちゃんの頭が母体の骨盤に比べて大きかったり、骨盤の形に問題があったりすると、赤ちゃんの頭が骨盤を通り抜けることができないので、帝王切開となることがありま す。
胎盤が子宮の出口をふさいでおり、赤ちゃんが出てこられない場合は、原則として帝王切開となります。
≪予定帝王切開を行う時期≫
手術日をいつ行うかに関しては、お母さんの状態や胎児の様子を観察しながら、主治医と相談の上決まります。予定帝王切開を行うかどうかは、妊娠36週ぐらいに最終判断されます。一般的には、胎児は十分に発育したとされる妊娠37~38週頃に手術が行われます。
≪手術前に陣痛がきたら≫
予定帝王切開となっても、手術日までに陣痛がきたら…と不安になりますよね。その場合は、緊急帝王切開を行います。手術日までに破水があったり、陣痛がきた場合はすぐに病院に連絡してください。
緊急帝王切開
自然分娩を予定していたのに、陣痛時、分娩時に何らかのトラブルが起きて自然分娩が危なくなり、急遽行われる帝王切開のことです。妊娠中の検査等でリスクの低いと判断された妊婦さんでも、陣痛・分娩後に緊急帝王切開が必要となるのは約2%ほどです。
≪緊急帝王切開になる場合≫
- 胎児機能不全
- 前期破水
- 微弱陣痛
- 回旋異常
- 常位胎盤早期剥離
- 臍帯下垂、臍帯脱出
- 子宮破裂
妊娠中、分娩中に赤ちゃんに命の危険が及ぶ恐れがある状態のことです。赤ちゃんが低酸素症に陥った場合は緊急帝王切開が必要になります。
前期破水とは、陣痛が来る前に羊水が流れ出てしまうことです。陣痛とは子宮の収縮であり、羊水というクッションがないため、胎児機能不全などの合併症を引き起こしたり、子宮内感染を胎児がおこしそうな場合は、緊急帝王切開を行うことがあります。
陣痛が非常に弱く、陣痛促進剤を使っても子宮の反応が不十分なため、自然分娩ができないと判断されたときに緊急帝王切開を行います。
出産時に赤ちゃんは産道の形に合わせて頭を回しながら降りてきます。このときに、うまく回らず分娩の進行がない場合、緊急帝王切開に切り替えることがあります。
妊娠後期に、突然胎盤が子宮壁から剥がれ落ちてしまうことです。胎盤は本来胎児を出産後に子宮壁から剥がれ、体外に排出されますが、胎児が胎内にいるうちに剥がれ落ちてしまうと、胎盤を介して胎児に酸素や栄養を送り届けられない状態になります。大出血を従うため、母体にも影響があり、危険を伴うため帝王切開を行います。
赤ちゃんとお母さんをつなぐへその緒が、破水前に赤ちゃんより先に子宮口まで下がってきたり、破水後に膣内にはみ出たりする場合、緊急帝王切開が行われます。
過去に帝王切開や子宮の手術を受けている場合に、稀にですが分娩時に子宮が裂けてしまうことがあります。
帝王切開の利点とリスク
≪帝王切開の利点≫
- 赤ちゃんを安全に産むことができる
- 予定が立ちやすい
- 陣痛の痛みがない
一番の利点は、リスクのある母子が安全に出産できることです。また、前回の出産におけるトラウマ体験や恐怖心などの精神的な負担も少なくなります。
予定帝王切開の場合は、予め出産日を決めるので、仕事で忙しいお父さんも分娩に参加できたり、また上の子の預け先なども予定が立てやすくなります。
予定帝王切開の場合は、陣痛が来る前に手術を行いますので陣痛の痛みを経験することなく赤ちゃんと対面できます。陣痛の痛みは想像できないことから恐怖を感じることもあり、そのような精神的負担もなくなります
≪帝王切開のリスク≫
- 入院日数が長くなる
- 肺血栓塞栓症
- 次の妊娠時に、前置胎盤になりやすい
- 次の妊娠時に自然分娩を選択した場合に、子宮破裂のリスクが考えられる
手術により母体への負担が大きくあり、自然分娩より入院日数が長くなります。上の子を預ける場合の段取りが必要ですし、入院日数が長くなることで入院費も加算されます。
手術後は、長時間ベッドに横たわることになるので、肺血栓塞栓症のリスクが高まると言われています。ベッドの上で足を動かしたりして、血栓の予防策を行いましょう。
可能性として言われていることで、必ずしもそうとは限りません。
1人目が帝王切開だったから、2人目を自然分娩でと望むお母さんも多いと思いますが、稀にですが子宮破裂のリスクも考えられますので、お医者さんとよく相談しましょう。
手術の流れを知ろう
事前準備
- 手術日を決める
- 入院する
お母さんの状態と胎児の状態を見て、主治医と相談のうえ、手術日を決定します。もし、決定した手術日までに陣痛が起ったり、破水したりすると、緊急帝王切開が行われます。
入院時の必要なものの確認や、退院予定日、手術に関する注意事項等、主治医の先生と確認して準備しておきましょう。一般的には手術後7~10日後に退院します。
手術開始
手術は一般的に、前日の夜から食事を抜き、朝早めに入院し、術前検査を行い、昼過ぎに手術開始となります。
手術室に入ったら、まずは麻酔を行います。この麻酔は、硬膜外麻酔・腰椎麻酔という全身麻酔ではなく、胸から下だけに効く局所麻酔です。
切開
帝王切開は、皮膚・筋膜・腹膜・子宮という順で切っていき、赤ちゃんを取り出します。
切開には、お臍の下からお腹に縦に切る「縦切開」と、恥骨の上を横方向に切る「横切開」があります。一般的には傷あとや創部離開などが少ない横切開が主流となっていますが、緊急の場合などは手術にかかる時間が少なく、シンプルな縦切開が行われます。
赤ちゃん誕生
お母さんは局所麻酔の状態なので、痛みはありませんがお腹を触られている感覚や切られている感覚は分かります。なので、赤ちゃんを取り出す感覚も分かります。意識がある状態なので、お腹から取り出した赤ちゃんとすぐに対面することもできます。全身麻酔の場合には、麻酔が切れた後に赤ちゃんと対面となります。
手術は比較的短時間で行われ、約30分~1時間以内には終了します。これは、赤ちゃんに麻酔による悪影響が及ばないようにも配慮されています。
処置
赤ちゃんを取り出した後は、胎盤を取り出して、子宮の中をきれいにします。その後、お腹の傷を縫い合わせます。お腹の中は溶ける糸を使用し、一番外の皮膚はステープラー(ホッチキスのような針)や溶ける糸で止める場合が多いです。ステープラーの場合は、一週間後に抜針が必要になります。
帝王切開の費用は?保険は適応されるの?
平均費用はいくらぐらい?
平成28年診療報酬点数表によると、予定帝王切開にかかる手術費用は、20万1,400円です。
緊急帝王切開にかかる手術費用は、22万2,000円となっています。
これに加えて、通常の分娩費用、入院費用が加算されます。このように聞くと、経済的にも不安になるかと思いますが、帝王切開の手術の場合には、医療行為とみなされ、健康保険が適用されます。ですので、3割が自己負担となります。
帝王切開での出産費用も自然分娩での出産費用も、最終的にはあまり変わらない金額になります。
帝王切開で受け取れるお金
≪出産手当金≫
産休に入っている人が、給料がもらえない代わりに支給されるものです。産休は、産前6週間と産後に8週間となります。
この出産手当金は正社員だけでなく、健康保険料を支払っていれば契約社員や派遣社員、パート、アルバイトも支給対象になります。扶養に入っている場合は適応されません。
- 対象:勤め先の健康保険の被保険者
- 受け取れる金額:直近1年間の標準報酬月額平均×2/3×日数分
- 申請先:加入している健康保険
≪出産育児一時金≫
健康保険に加入している場合は、赤ちゃん1人に対して42万円支給されます。出産育児一時金は、病院側が直接請求してくれる場合と、退院後にお母さん自身が請求する場合とがあります。出産後に助産師さんや看護師さんから説明があると思いますので、確認しましょう。
- 対象:健康保険の被保険者または被扶養者
- 受け取れる金額:42万円
- 申請先:加入している健康保険
≪医療保険の給付金≫
帝王切開手術による入院に対して、給付金がある医療保険もあります。自分が入っている医療保険は、適応されているのかどうか必ず確認してください。
- 対象:医療保険の加入者
- 受け取れる金額:契約内容によります
- 申請先:保険会社
≪高額療養費≫
高額療養費とは、1カ月間に支払った医療費が自己負担限度額を超えた時にその超過分を払い戻してもらえるというものです。健康保険から支給されますので、帝王切開での医療費も対象となります。この自己負担限度額は年収に応じて5段階に分かれていますので、確認しておきましょう。
- 対象:健康保険の被保険者または被扶養者
- 受け取れる金額:所定の自己負担限度額を超えた分
- 申請先:加入している健康保険
≪医療費控除の還付金≫
医療費が多くかかった人を税金面で優遇してくれる制度のことを、医療費控除といいます。これは帝王切開に限らず、妊娠・出産にかかった費用は医療費控除の対象となり、確定申告後に払いすぎた税金が還付金として戻ってきます。
ただ、確定申告が必要となりますので、時間を見つけて申請を行ってください。
- 対象:1年間に自分と家族が支払った医療費が10万円を超えた人
- 受け取れる金額:申告額と本人の所得税率によって異なる
- 申請先:管轄の国税局・税務署
2人目について
2人目の出産方法は?
帝王切開で出産した後の出産は、帝王切開をすすめる病院が多いようですが、総合病院などの大病院になると、自然分娩で対応してくれるところもあります。もし、次の出産で自然分娩を望むなら、周りの病院も合わせて調べてみてくださいね。
帝王切開だと何人産めるの?
手術により子宮を切開することから、帝王切開による出産は2回までとされてきましたが、最近では3回までは大丈夫と言われています。
帝王切開についてのQ&A
Q.帝王切開の場合は、立会出産はできるの?
A.帝王切開は“外科手術”となるので、分娩の立会が不可の病院があります。また、立会が可能でも開腹部分が見えないようにする病院もあります。帝王切開での立会は病院によって違いますので、立会出産希望の場合は早めに病院に確認をしましょう。
Q.帝王切開後の痛みはいつまで続くの?
A.痛みは麻酔が切れた後から始まります。出産当日の夜~産後2日目くらいで痛みのピークを迎えます。痛みがいつまで続くかは人それぞれですが、退院する頃には痛みが引いていることと思います。出産から1カ月後に、お母さんと赤ちゃんの1カ月検診があるので、まだ痛みが続くようなら、必ずお医者さんに相談しましょう。
Q.帝王切開した傷跡は、しっかり残るの?
A.縦切開と横切開がありますが、横切開のほうが縦切開に比べて傷跡が目立ちにくいです。だいたい2~3年経つと目立たない傷跡になっていきますが、綺麗に消すことはできないと考えていいでしょう。もし、綺麗に消したい場合は専門医に相談してください。
帝王切開後は心のケアと身体のケアを忘れずに
帝王切開後のお母さんは、大手術をした後と同じ状態です。時間も短く、比較的簡単な手術とはいえ、皮膚を切り赤ちゃんを取り出しているのです。
退院後も決して無理はせずに、まずは身体を休めることに専念してください。お母さんの身体が回復しないと、赤ちゃんのお世話もとても辛いものと感じてしまいます。
また、忘れてはならないのが“心のケア”です。
全てのお母さんの願いは、「無事に赤ちゃんがこの世に生まれること」だと思います。そのためには、帝王切開が必要な場合も多くあります。自然分娩も帝王切開も、お母さんが赤ちゃんのことを考えて頑張って産んだことに変わりはありませんが、まだまだ「楽に産んだ」などと捉えられていることも少なくありません。
帝王切開は決して楽な出産ではないのですが、「自然に産んであげられなかった」という後ろめたさを感じるお母さんもいると思います。決してそのような思いをする必要はなく、10カ月という長い間、お腹の中で育ててきたのはお母さん自身です。
帝王切開もきちんとしたお産なのです。産んだことに胸を張って、育児を楽しく行ってほしいと思います。