同一労働同一賃金とはどんな制度なの?知っておきたいメリット・デメリットと実現性について

「同一労働同一賃金」という制度ですが、どのようなものなのでしょうか。正社員として働く人と、パートタイマーやアルバイトとして働く人の賃金には差があります。この差について、どうしていくかを政府が考えたものが「同一労働同一賃金」です。具体的にはどのようなものなのか、詳しく解説していきます。

同一労働同一賃金推進法とはどんな制度?

同一労働同一賃金とは、労働者が同じ内容の仕事をする場合、雇用の形態に関わらず、全員に同一の賃金が支払われるべきであるという制度です。日本では、年功序列というものが古くから根付いており、年少者よりも年長者のほうが賃金が多くもらえるという場合がほとんどです。

勤続年数や雇用形態によって賃金が決められます。非正規雇用の人が正規雇用の人と全く同じ仕事をしていても、賃金は正規雇用の人のほうがいいという場合が多いです。同じ仕事をしているのに非正規雇用だから、という理由で待遇がよくないというのは問題ではないかということでこの制度が提案されています。

同一労働同一賃金推進法の概要

「同一労働同一賃金ガイドライン案」は、2016年12月20日に政府によって公表されました。このガイドライン案は、古くからのしきたりになっている年功序列制度をやめようではないかとの政府からの提案です。ガイドライン案は、基本給・各種手当・賞与などの対象について具体例を挙げて、正規雇用労働者と非正規労働者の待遇に差がついていることについて、詳しく解説しているのが特徴です。

基本給を、経験や能力を考慮して支払うものであるとする場合、非正規労働者が正規労働者と同じ経験や能力があれば、同一の支給をすべきだということがはっきりと書かれています。ガイドライン案には、年齢を重ねればいいというわけではない、正規労働者には会社への貢献などに関わらずボーナスを全員がもらっているのが、非正規労働者には支給がないことをピックアップして「良くない例」として挙げています。

このように、政府が提示しているガイドライン案はいろいろな具体的例を挙げながら、正規労働者と非正規労働者の格差をなくそうと、本気になって取り込もうとしているということが伝わってきます。

  • 同一労働同一賃金推進法のガイドライン案を見てみよう
  • 同一労働同一賃金推進法のガイドライン案は、2016年12月20日に安倍首相が議長を務める「働き方改革実現会議」の一つとして政府案として示されました。このガイドライン案は、正規雇用・非正規雇用に関わらず、均等・均衡な待遇を現実化させるために策定されました。そして、原則的な考え方や待遇差などについて分かりやすく事例を挙げています。

    基本給については、大きく3つに分けて説明しています。その3つとは労働者の「職業経験や能力」「業績」「勤続年数」です。また、ガイドライン案では、労働者が雇用形態に関わらず同一労働と認められる場合、全員同一の賃金を支払うよう使用者に求めています。もしも実態に違いがある場合は、その違いに応じて賃金を支給します。このように、ガイドライン案は従来の法律では踏み込んでいないところまで踏み込み、例を挙げてどういった場合に同一賃金が支払われるべきかを示しています。

首相官邸 同一労働同一賃金ガイドライン案

いつから施行されるの?

同一労働同一賃金の制度は、2019年度からの施行を目指しています。そのためには、労働契約法やパートタイム労働法及び労働者派遣法の改正も検討されています。

海外ではどうなの?

海外では、ドイツやフランスが同一労働同一賃金を取り入れており、その活動が広まっています。ドイツやフランスでは、同一労働同一賃金は「人権保障に関する差別禁止原則の一つ」として考えられています。人権保障に関する差別禁止とは、宗教・信条・性別・障害などを理由として差別することを禁止するものです。フランスでは会社が違っても「職務ごと」に賃金が決まっています。そのため結果として、同じ業種の仕事をする人は全てが同一の賃金になるのです。

海外では同一労働同一賃金は、言わば職務給というものです。仕事が明確に分けられていて、各労働者がどんな仕事をしているのかはっきり決まっています。このため、同一労働同一賃金が取り入れやすいのです。その一方日本では、同じ業種であっても賃金は「会社ごと」に異なります。ですから、日本で同一労働同一賃金というと、「雇用形態の格差をなくすため」の考え方となります。欧米では、正規労働者と非正規労働者の賃金の格差は少ないのですが、日本では日正規労働者の賃金は正規労働者の約6割となっています。

同一労働同一賃金のメリット

非正規労働者の不満がなくなる

非正規労働者は、自身の生活環境などによって短時間勤務を選ばざる得ないという場合があります。正規雇用で働きたいが、家庭の事情などでやむを得ないという人もいるでしょう。短時間であれ、仕事の内容が正規労働者と全く同じである場合は、賃金に関して不満を感じることもあるでしょう。例えば、飲食店などでは勤続年数が長いパートタイムの人が店長のような仕事をしているところがあります。

仕事は店長並なのに、賃金は社員よりも低いという状況では、不満が出てくるのは仕方ないのではないでしょうか。労働者にとって、賃金の額は仕事への評価となります。それが低いとなると、仕事へのモチベーションが下がってしまいます。労働者にとっては自分に支払われる賃金が、正当な評価であることが重要です。同一の賃金になることで、待遇が改善されると不満がなくなって仕事への意欲がアップするのです。

教育などの機会が与えられ業績も上がる

会社によっては正規労働者へ研修や資格取得の補助を行なっています。もしも同一労働同一賃金の制度が導入されたら、非正規雇用労働者にもそれらが適用されることになります。労働者にとっては、雇用に関係なく教育の機会を与えられることで、キャリアアップに繋がり、やりがいを得て仕事に向き合うことができるようになります。そして、多くの人が能力アップのために知識や資格を取得することで、業績が上がることが期待できます。

同一労働同一賃金のデメリット・問題点

給与が減る可能性がある

正規雇用の人でも非正規雇用の人でも同じ仕事をしているならば同じ賃金を払いましょう、ということがデメリットにもなります。全従業員の賃金を同じ額にするということで、「正規労働者の方に合わせる」のか「非正規労働者の方に合わせる」のかということが問題になってきます。

会社によってどう設定するのかというところがポイントですが、もしも全労働者の賃金の平均額となった場合は、正規労働者に限らず今までもらっていた額よりも賃金が減るという人も出てくるでしょう。そうなった場合、今までと同じ仕事をして賃金が下がるということになり、仕事へのモチベーションが下がるということが考えられます。

仕事への評価がシビアになる可能性がある

同じ賃金をもらうなら同じように仕事ができないといけないと、仕事への評価が今まで以上にシビアになる可能性があります。もちろん、どの仕事でもどんな雇用形態でも同じように仕事をしなければならないのは当たり前です。

パートタイマーで働く人の中には、子育てをしながら働く人もいるでしょう。子どもが熱を出してしまい、休まなければならない時に「同じ賃金をもらってる」ということで、仕事を休みにくくなったり、休みを言い出しにくい環境になってしまう可能性が考えられます。

企業の人件費が上がる

雇用に関わらず、待遇を同じにするということになります。その場合、非正規雇用の労働者の待遇アップをするために、正規労働者の基本給を下げて非正規雇用と同じにするということはできません。既存の正規労働者の既得権益を侵害することになるからです。ということは、正規労働者の賃金に合わせて、非正規労働者の賃金を上げるということになります。

また、その対象が基本給などの賃金だけでなく、教育環境の整備や福利厚生なども含まれます。そのため企業は今までよりも経費が増加することが予測されます。そして、非正規労働者を多く雇用している企業は、人件費が予想以上に高騰することが予想されます。それは、会社の経営に関わることになる可能性もあるのです。もしも同一労働同一賃金の導入が本格的なものになった場合、会社の経営に関わる重大な問題になる会社も出てくるかもしれません。

年功序列がなくなり不満を感じる場合がある

昔から日本では先に会社に入った人が、後から入った人よりも賃金が高いという年功序列制度でした。勤務年数が長い人ほど賃金がよいという制度で、この制度は長く続きました。近年、少しづつではありますが、「能力給」という個人の能力を賃金のアップへの判断基準として取り入れる会社も増えてきています。

しかし、これは年功序列制度ありきのものです。これから全ての賃金を年齢も雇用形態も関係なく、同一のものとすれば、それに反発を感じる労働者が出てくることが予想されます。

同一労働同一賃金は実現するのか

同一労働同一賃金は、非正規雇用と正規雇用の格差をなくすという目的ではありますが、日本の昔からの考え方を変えるのには時間がかかりそうです。実際に、日本でもフランスのように同じ業種であれば会社が違っても時給などの賃金が同じだという業種があります。コンビニエンスストアがその例です。会社が違ってもコンビニエンスストアの時給は地域差はあるものの、だいたい同一の賃金です。

医療業界や美容業界も同様に、賃金はほぼ同額です。同じ仕事をしているので同じ賃金だというものですが、これを正規雇用の人も同じにするとなると果たしてうまくいくのか疑問があります。同一労働同一賃金の実現に向けては、これからたくさんの課題と向き合わなければいけません。

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