「女性活躍推進法」で女性の働き方はどう変わる?気になるその内容と企業の取り組み例について

女性活躍推進法が施行されたことで、女性の働き方に関する注目がますます高まっています。今後、女性の働き方はどのように変わっていくのでしょうか。気になる法律の内容と企業の取り組み例について、具体的にご説明します。

女性活躍推進法が制定された背景は大きく2つ!

仕事の場において女性が十分に力を発揮できていない現状

女性の就業率は着実に上昇してきています。しかし、働きたいと思いながらも、育児や介護などの理由で働いていない女性は約300万人にも上ります。出産や育児を理由に仕事を辞める女性も依然として多いのが現状です。実際、第一子出産を機に約6割の女性が離職しています。また、出産や育児を経て再就職したとしても、パートやアルバイトといった非正規雇用になる場合が多いです。そのため、非正規雇用として働く女性の割合は、女性雇用者全体の半数以上を占めているのです。

女性管理職の割合も徐々に増えてきてはいますが、それでも欧米やアジア諸国と比べて低い水準にとどまっています。このような状況を踏まえると、働く場面で女性の力が十分に発揮することができているとは言えないのが現状です。働きたいと思っている女性が、希望する働き方を実現できるようにするためにはどうすればよいのか。社会全体として、女性の活躍推進に向けた取り組みを具体的に定め、実行していくことが重要であるとされたのです。

人口減少で懸念される深刻な労働力不足

一方で、現在日本では少子高齢化が進み、労働力人口はどんどん減ってきています。このままでは、将来的に働く人の数が足りなくなることは明らかです。なんとかして働き手を増やさなければ、日本の経済が衰退しかねない、という危機的状況にあるのです。

そこで国が注目したのが「女性労働力」です。上で説明した通り、働きたいのに働けていない女性や、出産・育児で仕事を辞める女性が数多くいるのです。育児や介護などをしていても働き続けることができる環境を整えて、将来の労働力不足解消に繋げようというわけです。

女性活躍推進法の気になる内容について

女性活躍推進法の施行はいつから?

女性活躍推進法は、正式名称で「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といいます。平成27年8月に成立し、平成28年4月1日から全面的に施行されています。これに伴い、企業などにおいて、女性の活躍を推進するための取り組みが本格的にスタートしました。なお、女性活躍推進法は10年間の時限立法となります。

注目すべきは、仕事と家庭生活の両立にも配慮していること!

女性活躍推進法は以下の3つのことを基本原則としています。

  1. 女性に対する採用・教育訓練・昇進などの機会を積極的に提供、活用すること。また、性別による固定的な役割分担などを反映した職場慣行が、女性の活躍推進にあたってどのような影響を及ぼすかについて配慮が行われること。
  2. 仕事と家庭生活とを円滑に、継続的に両立できるようにするため、必要な環境を整備すること。
  3. 仕事と家庭生活との両立に関しては、女性本人の意思が尊重されるべきであること。

仕事の場面において、男女間の活躍に格差があることは最初に説明した通りです。また、会社によっては、例えば「お茶汲みや雑務は女性の仕事」というような考え方が根付いている場合もあるでしょう。そのため、基本原則の一つ目では、女性にも研修やキャリアアップなどの機会を積極的に設けるとともに、職場での女性の役割に対する意識も見直していきましょう、ということが明記されています。

そして、注目すべきは、基本原則の二つ目に明記されている「仕事と家庭の両立」です。
この「仕事と家庭の両立」については、女性だけでなく男性にも当てはまるものとされています。つまり、男性も含めて、ワークライフバランスの見直しが求められているということです。たしかに、「仕事が多忙で家庭のことはほとんど女性に任せっきり」という男性が多いようでは、女性の負担が増すばかりになってしまいますよね。女性も男性も、お互いに家族の一員として、育児や介護などの役割を果たしつつ、仕事で活躍できるような環境の整備が求められています。

最後に、基本原則の三つ目に明記されているのは、「女性自身の意思の尊重」です。
女性活躍推進法は、すべての女性を強制的に活躍させようとするものではありません。あくまで、職場において活躍したいと本人が希望する場合に、その実現を後押しするというものです。「結婚・出産後も仕事は続けていきたいけど、管理職にはなりたくない」という女性や、「子どもが小さいうちは仕事をセーブしたい」という女性もいますよね。女性それぞれの意思に基づいて、様々な働き方を実現できるような取り組みが求められているのです。

国・地方自治体・企業に具体的に求められることとは

女性活躍推進法の施行により、国や地方公共団体、企業は以下の取り組みを実施することが義務付けられました。
※ただし、常時雇用している労働者が300人以下になる企業については努力義務となっています。

女性の活躍に関する状況の把握と課題の分析

次に挙げるような項目について、自社の状況を把握し、女性の活躍推進において何が課題となっているのかを分析します。

  • 女性の採用比率
  • 男女における平均勤続年数の差
  • 残業時間数などの労働時間の状況
  • 女性管理職の割合

例えば、納期間近になると頻繁に長時間労働が発生するため、家庭生活との両立がイメージしづらいといった状況がある場合、残業時間数が多いことが課題となります。

課題解決に向けた行動計画の策定・周知・公表・届出

上記の「女性の活躍に関する状況の把握と課題の分析」の結果を踏まえて、それぞれの課題を解決するための行動計画を策定しましょう。行動計画には、「女性管理職の割合を5年間で2倍にする」といったように、課題に対する具体的な数値目標を盛り込みます。また、計画期間や取組内容、取組の実施時期についても明記します。

策定した行動計画は、社内に周知するとともに、外部へ公表しましょう。公表先としては、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」などがあります。また、都道府県労働局への届出も行いましょう。

女性の活躍に関する情報を公表する

自社の女性の活躍状況を公表します。情報を公開して「見える化」することにより、各企業の女性の活躍に対する姿勢がより分かりやすくなるのです。就職・転職を考えている女性にとっては、企業選びの参考にすることができるでしょう。情報の公表先としては、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」などがあります。

行動計画に基づいて取り組みを実施できているか、掲げた数値目標はどのくらい達成できているかなどを定期的にチェックすることも重要です。その結果を踏まえて、その後の行動計画や取り組みをより良いものにしていくことも、企業に求められています。

取り組みが優良な企業が取得できる「えるぼし」認定とは

行動計画の届出を行い、女性の活躍推進に向けた取り組みが優良な企業については、申請すれば「えるぼし」認定を受けることができます。

「えるぼし」認定を受けるとどんなメリットがあるの?

「えるぼし」は厚生労働大臣の認定で、認定されると企業にとって様々なメリットがあります。
まず、厚生労働大臣が定める認定マークを、自社の商品・広告などに付けることができます。これによって、女性の活躍推進に積極的な企業としてアピールすることができるため、優秀な女性人材の確保に繋がることが期待できます。また、「えるぼし」認定を受けると国が行う公共調達でも有利になります。

どうしたら「えるぼし」認定を受けられるの?

「えるぼし」認定には3段階あります。
認定基準には、「採用」「労働時間等の働き方」「継続就業」「多様なキャリアコース」「管理職比率」の5つがあります。このうち、いくつの基準を満たしているかによって認定の段階が異なります。いずれの段階の場合も、その実績を厚生労働省のサイトに公表していることが条件です。なお、女性活躍推進法の施行前からの実績も含めることができます。

  • 第1段階(1つ星)
  • 1~2つの基準を満たしている必要があります。

  • 第2段階(2つ星)
  • 3~4つの基準を満たしている必要があります。

  • 第3段階(3つ星)
  • 5つの基準すべてを満たしている必要があります。

※第1段階・第2段階ともに、満たしていない基準については、その基準を満たすための取り組みを実施する必要があります。取り組みの実施状況を厚生労働省のサイトに公表するとともに、その実績が2年以上連続で改善していることが条件となります。

女性の活躍を積極的に推進している企業の事例を見てみよう!

女性の活躍推進に積極的な企業は、実際にどのような取り組みを行っているのでしょうか?「えるぼし」認定を受けている企業の事例をご紹介します。

SCSK株式会社(情報通信業)

長時間労働や深夜残業が多い情報通信業界には、女性が活躍しづらいイメージを持つ人も多いでしょう。SCSK株式会社でも、以前から女性社員の離職率が高いことが問題とされていたようです。両立支援制度を充実させても女性社員の大半が離職してしまう原因は、企業の長時間労働体質にあるとして、女性活躍推進法の施行以前から、「働き方改革」を実施していました。具体的な取り組み内容を見ていきましょう。

  • 残業時間を削減するとともに、有給休暇を取得しやすい職場環境を実現
  • 管理職を含む全社員の勤務時間を記録・管理するなどして、徹底的な残業時間の削減に取り組みました。同時に、有給休暇取得の促進も実施し、企業全体として「休める体質」を作り上げていきました。その結果、2011年度~2014年度の3年間で、残業時間を約25%削減し、有給取得日数を約5割増しにすることに成功しました。

  • 各世代の女性社員が抱えている課題に応じた研修を実施
  • 女性役員およびライン管理職を2018年に100人にするという目標を設定し、女性のキャリア開発支援にも力を入れています。若手の女性社員向け、課長候補の女性向けといったように、世代ごとにキャリアアップを支援するための研修を実施しています。また、産休・育休取得者が円滑に職場復帰できるよう、「職場復帰支援プログラム」を取り入れています。

  • 女性が活躍できる職場環境の実現に向けた意識改革
  • 全管理職を対象に、仕事と子育ての両立を支援するための研修などを実施しています。また、全社員向けに、ダイバーシティに関するeラーニングの実施も行なっています。

参考元:CSR情報 ダイバーシティ|SCSK株式会社
参考元:厚生労働省 ポジティブ・アクション情報ポータルサイト

清水建設株式会社(建設業)

男社会の風潮が強い建設業界ですが、清水建設は女性活躍推進法が施行される前から、女性活躍のためのさまざまな施策を実施してきました。2016年には、ゼネコンで初となる「えるぼし」の第3段階(3つ星)の認定を取得しています。
現在は、女性管理職の比率を2014年度の0.5%から、2019年には3倍の1.5%に引き上げることを目標に、以下のような取り組みを実施しています。

  • 女性の継続就業のための意識づくりや、相談できるネットワークづくり
  • 全国の女性従業員を対象とした「女性活躍推進フォーラム」や、仕事と育児を両立する女性従業員を対象とした「ランチミーティングキャラバン」を実施しています。

  • 結婚や出産、育児により退職した社員の再雇用制度を導入
  • 結婚・出産・育児を理由に退職した社員を対象に、再度働く意欲のある人を再雇用しています。

  • ベビーシッター利用時補助制度の導入
  • 1日3,000円を上限として、会社がベビーシッターの利用料を補助する制度を導入しています。

  • 現場で働く女性の意見を取り入れた環境整備
  • 現場の女性の声を取り入れ、女性用ユニフォームのモデルチェンジを行いました。ズボンの腰回りに裏地を取り付けて生地が透けないようにするなどの配慮がされています。ヘルメットについても、頭の小さい女性にもフィットするように調整ベルトの改良などを行いました。

上記に挙げるような取り組みの結果、2014年の19名だった女性管理職の数が、2017年には68名にまで増加しています。

参考元:女性活躍推進|企業情報|清水建設
参考元:厚生労働省 ポジティブ・アクション情報ポータルサイト

株式会社三越伊勢丹ホールディングス(小売業)

顧客の大半が女性である三越伊勢丹ホールディングスでは、従来から、女性の活躍が不可欠であるという考え方が全社的に根付いているそうです。女性社員の比率も約70%と高く、育休や時短勤務に対しての理解も得られやすい環境です。もともと女性が活躍しやすい風土を持っている三越伊勢丹ホールディングスですが、女性の活躍をさらに推進させるために以下のような取り組みを行なっています。

  • 契約社員の無期雇用化
  • 月給制契約社員であるメイト社員を入社4年目から無期雇用化し、最短入社5年目で正社員への転換が可能としています。

  • 育児関連制度の充実
  • ワーキングマザーセミナーや復職準備説明会などを実施し、育児休業からスムーズに復職できるようサポートしています。これらの取り組みは、出産・育児を理由とした退職率の減少にも繋がっています。

  • 管理職昇格試験の積極的な受験促進
  • 管理職昇格試験の昇格者における女性の割合は約40%です。性別・学歴にとらわれることなく、意欲がある社員に対し積極的に受験するよう促しています。その結果、女性の受験者数が増加し、短大・高校卒業の合格者も年々増加しています。2014年には育児短時間勤務者の合格者も誕生しました。

参考元:厚生労働省 女性活躍推進特集ページ 企業の好事例集【卸売業、小売業(3)】

女性活躍推進法で女性の働き方はどのように変わっていくのか

女性活躍推進法の施行によって、企業などにおける女性の働き方改革は着実に進んできています。上でも説明した通り、女性活躍推進法は10年間の時限立法です。この10年で、企業の制度や環境が整備されるだけでなく、社会全体として働く女性に対する意識も変えていくことができるのか、注目したいところです。

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