【医師監修】高齢出産は何歳から?高齢妊婦における3つの課題やリスク、気を付けたい病気、発達障害との関係について

女性のライフスタイルが多様化する現在、高年齢で出産、子育てをする方が増えてきています。高齢出産という言葉から連想されるネガティブな要素に不安を感じる女性も多いと言います。まずは、高齢出産とは何か?どんなリスクがあるのかを正しく知り、自分が後悔しない選択、よりよい出産、育児を目指しましょう。

高齢出産は何歳から?その定義は?高齢出産の現状を知ろう!

医学的に見た高齢出産

日本産婦人科学会によると1990年以前は「30歳以上の初産婦」と定義していた高齢出産の年齢を引き上げ、現在では「35歳以上の初産婦」としています。
全国的に出産の高齢化が進み、特に都市部では35歳以上の出産が全体の4割近くを占めているのが現状です。「初産婦」とされているとおり、すべての35歳以上の出産が高齢出産にあてはまるわけではないのが、一般的な認識と異なる点です。医学的に見た高齢出産は、そもそも妊娠自体を望んでもかないづらくなる点を始め、妊娠時の合併症や分娩時のリスク、また産まれてくる子どもの染色体異常の発生頻度が上昇するなど、さまざまなリスクが懸念されています。
現代女性の外見の若々しさとは裏腹に、生物的な加齢という事実を受け入れざるを得ないのが現実です。

高齢出産はひとつのライフスタイル?芸能人、アナウンサーの出産事情

さまざまなリスクが心配される高齢出産ですが、仕事を充実させたのち、成熟した年代になって人生の伴侶と出会い結婚、出産する芸能人、アナウンサーなど著名人のニュースを目にすることが多くなってきています。例えば40代で第一子を妊娠、出産した相田翔子さん、松嶋尚美(オセロ)さん、はしのえみさん、元テニスプレーヤーの杉山愛さん、フリーアナウンサーの膳場貴子さん。
また海外ではマドンナやニコール・キッドマン、セリーヌ・ディオンなど大女優、ビッグシンガーたちが高年齢で妊娠、出産をしています。華々しくキャリアを築き上げてからの高齢出産はひとつのライフスタイルのようでもありますが、その一方で、東尾理子さんが不妊治療を行い妊娠に至った経験を告白するなど、高齢出産の厳しい現実と向き合いながらの道を歩んでいることが窺われます。

高齢出産でも初産と二人目は違うの?40代でも大丈夫?

前述の通り日本産婦人科学会では「35歳以上の初産婦」を高齢出産と定義していますが、二人目、三人目の経産婦の場合、出産に関してはそれほど年齢的なリスクはないと言われています。
しかし初産が順調ではなかったり、二人目以降の出産時までにブランクが長く空く場合は初産と同等の危険性があります。また、日本での自然妊娠の出産例は46歳が最高年齢(2017年6月時点)です。現代の医学の進歩によって40歳代での妊娠・出産も多く行われるようになりましたが、40代前半から40代後半では出産経験数が大幅に下がるというデータもあり、子どもを授かりたいと思っている場合は40代前半までを目安に考えておいた方がよさそうです。

高齢出産3つの課題と向き合おう!

妊娠率の低下と流産率の上昇

高齢出産におけるリスクとしてまず知っておかなくてはいけないことは、卵子は加齢により老化し、妊娠しづらくなるということです。
女性は胎児の頃から卵巣のなかに卵子のもとである原子卵胞を持って産まれてきます。これは身体の他の細胞と同じように新たに生成されることはなく、胎児の頃の700万個をピークに、年齢を重ねるごとにその数を失っていきます。妊娠が成立するためには、正しく排卵が起こり、またその卵子は発達、成熟したものでなければ精子と出会っても受精卵として育ち、着床、妊娠の継続へとは至りません。このため30歳頃から徐々に妊娠率は下がり始め、35歳以降著しく低下、45歳を過ぎると自然妊娠は難しいとされているのです。妊娠しにくく、流産や胞状奇胎のリスクが高まる年齢が35歳以降と認識しておいた方がよいでしょう。

不妊治療の必要性

30代前半の自然妊娠率はおよそ20~30%40歳では約5%まで低下すると言われています。このため高年齢で妊娠を希望する女性は不妊治療を受ける方が多く、実際に高度な医療の力を借りて妊娠されているケースも増えています。
しかし、「人工授精」「体外受精」「顕微受精」などの生殖補助技術による治療は、高額な費用、治療薬の副作用、また周囲の目を気にしながら、仕事を調整してクリニックに通うなど、大きな負担がかかります。
さらにこの高度不妊治療をもってしても加齢による卵子の老化を遅らせることはほぼ不可能。妊娠、出産率は年齢とともに下がってしまうのが現実です。不妊治療を受ける場合は、必ず結果が出るという訳ではないことを理解した上で、自分たちはどこまで(治療のステップ、費用、期間など)進めるのかを夫婦で十分に話し合っておくことが大切です。

分娩時のリスク

分娩の長時間化

分娩が近づくと胎児を娩出させようと陣痛が始まり、子宮口が全開になりますが、高齢出産の女性は、陣痛が弱い(微弱陣痛)ことがあります。また胎児が通過する子宮頸管から、会陰にかけての軟産道が硬くなっていていることで分娩が長引いてしまうことが多いのです(軟産道強靱)。このため、分娩にかかわる出血量が増えたり、母体の体力が低下するなど、母子ともに負担が大きくなり、危険なケースとなることもあるので注意が必要。帝王切開や赤ちゃんの頭に吸引器を付けて引き出す吸引分娩、鉗子で頭を挟んで引き出す鉗子分娩などの補助操作が行われます。

分娩誘発、促進施行率上昇

予定日を過ぎても陣痛が始まらない、また陣痛が起きても強くならず分娩がスムーズに進まないなどの場合に、陣痛促進剤を使用し、分娩の誘発や陣痛促進を行います。胎児機能不全や子宮破裂を起こす危険性のある過強陣痛や、吐き気、下痢、不整脈などの副作用が出ることもありますが、高齢出産では施行することが多くなります。

帝王切開率上昇

現在40歳以上では3割以上が帝王切開による出産を行っていると言われています。子宮手術既往や胎位異常、胎盤の位置異常などの医学的な適応での予定帝王切開、また陣痛が起こってから分娩が進行しない、あるいは胎児機能不全などのためにおこなう緊急帝王切開を選択するということもあります。しかし、術後管理が大きく改善されたことで頻度はきわめて低くなってきているといえ、帝王切開の術後合併症として深部静脈血栓症や肺塞栓症など母体死亡につながるような大きなリスクもあるため、高齢出産だからという理由で帝王切開術を選択することには慎重になる必要があります。産院選びや妊娠・分娩の予備知識を蓄えるなどの準備が必要になってくるでしょう。

癒着胎盤

癒着胎盤とは胎盤の一部を形成する絨毛が子宮筋層に侵入し、胎盤と子宮壁が癒着することによって自然に胎盤が剥離されないことをいいます。明らかな要因がないこともありますが不妊治療による妊娠、子宮筋腫や帝王切開術など子宮手術の既往によって年々リスクが高まっています。分娩後の大量出血により子宮全摘術を必要とするケースもあります。

高齢出産妊婦が気をつけたい病気

妊娠高血圧症

妊娠中に起こる代表的な産科合併症が妊娠高血圧症です。この症状は年齢が上がるにつれて発症頻度が高くなり、40歳以上では30歳代前半の妊婦のほぼ2倍にまで上昇するといわれています。この妊娠高血圧症が重症化すると脳出血や脳梗塞を引き起こし、母体死亡につながることもある重篤な症状なのです。また胎盤や子宮の血行が悪化して、胎児の発育不全、低体重出産、死産となる恐れもあります。そのほか分娩前に胎盤が子宮から剥がれてしまう常位胎盤早期剥離、痙攣や意識喪失、視野障害など症状が出る子癇(しかん)、肝臓機能の悪化や血小板減少といった症状のHELLP症候群などが合併症として危惧されます。妊娠高血圧症の初期は自覚症状に乏しく、また予防法も確立されていませんが、重症化すると母児ともに命を落とすこともある恐い疾患です。妊娠中や産後の健診をきちんと受け、何かあれば医師に相談することが大切です。

妊娠糖尿病

「妊娠高血圧症」と並んで高齢出産の妊婦が気をつけておきたい症状が「妊娠糖尿病」です。妊娠糖尿病は妊娠中に初めて発見された糖代謝異常。年齢が上がるにつれて、インスリン分泌量が減少し発症リスクが高まると言われています。高血糖になるとお腹の中の赤ちゃんも高血糖になり、さまざまな合併症になり得ます。早産や流産、形態異常、またお母さん側は尿路感染症、羊水過多症、妊娠高血圧症などです。妊娠糖尿病と診断されたら医師の指示のもと、血糖の厳重な管理が欠かせません。妊娠の早いうちと、妊娠が進んでからの定期検査で血糖検査を受けることと、食事や生活習慣に気をつけることでリスクをコントロールしましょう。

高齢出産と発達障害の関係について

ダウン症

高齢出産との関係が指摘されているリスクに胎児の染色体異常があり、代表的な疾患がダウン症です。ダウン症は通常ヒトの細胞内にある染色体が1本多くなっていることから「21トリソミー」とも呼ばれている先天性の染色体異常であり、卵子や精子の老化だけでなく、何らかの原因で染色体の分裂が正常に行われていなかったことに起因しています。ダウン症の発症頻度は年齢が上がるにつれて明らかに上昇し、40歳以上の妊婦では100人に1人の割合と言われています。

自閉症

自閉症は先天的な脳機能や中枢神経の異常が原因とされているもので、高齢出産がどのくらい影響を及ぼしているかははっきりしていません。また父親が50歳以上の場合に精子の運動量の低下や形態異常により発症するという報告もありますが、こちらも因果関係は定かではありません。

アスペルガー症候群

文部科学省の定義によると”アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ自閉症の特徴のうち言葉の発達の遅れを伴わないもの”としています。約4,000人に1人という割合で発症し、広汎性発達障害に分類されます。
コミュニケーション、対人関係がうまくいかない、限定された物事への過剰なこだわりなどが特徴です。自閉症と同様に高齢出産との関係、父親の年齢の影響ははっきりしていません。また、ダウン症が出生前の検査によりある程度診断できるのに対して、自閉症とアスペルガー症候群は出生前診断で診断することはできません。産まれてからある程度時間が経って診断できるものです。

高齢出産における精神的負担

出産への焦り

高齢出産と言われる年齢で子どもを持つことを希望する女性にとっては、一日でも早く妊娠したいと願っているはずです。特に不妊治療を受けている方は、その願いが大きな焦りとなり治療結果に一喜一憂するような日々を過ごすこともあるでしょう。また無事に妊娠できたとしても高齢出産にまつわるさまざまなリスクを考えると不安でたまらないなど、マタニティライフを心穏やかに楽しめる余裕なんてなさそうに感じてしまうかもしれません。
しかし、それは年齢に関係なくすべての妊婦が乗り越えなくてはいけないもの。誰でもはじめてわが子を自分の目で見るまでは期待も不安も伴います。精神的な焦りが身体に悪影響を与えないよう、自分なりのストレス発散や気分転換の方法を見つけましょう。

産後うつ

妊娠中は通常の80倍とも言われる女性ホルモンが分泌し、産後急激に減少していきます。この女性ホルモンの激動が自律神経に強い影響を及ぼしうつ状態を引き起こすのが「産後うつ」です。
またお産の疲れ、慣れない育児へのストレスなどが加わり、高齢出産の妊婦は産後うつにかかりやすいと言われています。周囲の助けを上手に借りてまずは自分の体調を回復させることを第一に考えることが大切。必要以上に高齢出産であることを意識するのもプレッシャーになってしまうので、リラックスして育児に向き合いましょう。

育児不安

育児に対する過剰な不安や自信喪失をきっかけに陥る精神状態で、育児ストレス、育児ノイローゼとほぼ同義と考えられています。子どもに対する感情の起伏が激しくなり、攻撃性が強くなってしまうこともあります。この状態が長く続くことでうつ状態へと陥ることもあり、高齢出産の女性の方が感じやすいと言われています。一見、人生経験を長く積んだ女性の方が精神的な余裕をもって育児に取り組めそうですが、自分やパートナーの年齢、体力の低下、また育児をサポートしてもらいたい両親の高齢化などから子育てへの不安を強く抱いてしまうのです。まずは、初めての育児で戸惑うのは当たり前と思い直し、完璧主義にならない、自分一人で悩みを抱え込まないことが重要。おおらかに子どもを育てていくように自分自身をコントロールしていきましょう。

よりよい高齢出産のために知っておきたい3つのこと

出生前診断について

赤ちゃんの先天性異常のリスクが高まる高齢出産では出生前診断を行うこともひとつの選択としてあります。
しかし出生前診断は”命の選別”という倫理上の問題が関わるため、最終的には夫婦で十分に話し合い自分たちで決断を行わなければなりません。現在行われている検査は主に4つです。流産の危険性や母体への負担、また重い選択を迫られることを覚悟しておかなくてはなりません。

母体血清マーカー検査(トリプルマーカー検査、クアトルマーカー検査)

妊娠の14週から17週あたりに母親の血液を採取し染色体異常の確率を調べます。簡単にできる検査ではありますが、ここでわかるのはダウン症など一部の染色体異常の予測確率でしかありません。

羊水検査

妊娠15週以降妊婦の子宮に針を穿刺して少量の羊水を採取し染色体異常がないかを調べる検査。母体血清マーカー検査よりも正確な判断ができますが、先天性異常の程度など詳しい判断はできません。また0.3%ほどの確率で流産を引き起こす可能性があることを理解しておかなくてはならない検査です。

絨毛検査

妊娠10週から14週あたりに子宮口から細い管を入れ胎盤のもととなる組織を採取して調べる検査です。ダウン症の診断としての精度は高いものの約1%の流産の可能性があります。

新型出生前診断(NIPT)

妊娠10週以降、母体血清マーカー検査同様に母親から採血し、絨毛由来の胎児のDNAの断片を調べるものです。流産のリスクが低い上に精度が高いとされています。

産院選びについて

産院は大きく分けて3段階あります。まずはハイリスク妊婦に対応できる大きな病院です。「総合周産期母子医療センター」「地域周産期母子医療センター」などセンターの指定を受け、MFICU(母体胎児集中治療室)、NICU(新生児特定集中治療室)を必要数有しています。
次にミドルリスクの妊婦に対応するため、上記の周産期母子医療センターと密接に連携した地域の病院の産科や診療所などがあります。
そして低リスクの妊婦には助産院なども含め医師1人の診療所でも出産が可能と言われています。自分がどの程度のリスクがあるかを正しく判断し、理想のバースプランとすり合わせながら、納得のいく産院選びをしましょう。

産後のライフプラン

高齢出産の妊婦はまずは無事に出産することが目標ですが、その後の子育てこそが本番です。
子どもを育てることは出産以上に体力が必要。自分たちが健康に留意し、体力、体調を常に管理していかなくてはなりません。また育児のサポートを頼りたい両親も高齢になること、仕事を続ける場合は保育園など子どもの預け先の確保などについても考えなくてはなりません。さらに子どもが成人する前に自分たちが定年を迎えるような場合は進学資金をどうするのか、二人目を望むのかなども予め話し合っておく方がよさそうです。

後悔しない選択をすることで高齢出産をプラスに変えましょう!

高齢出産は確かにハイリスクです。卵子が老化するという現実を多くの女性が知り、少しでも早く妊娠・出産計画を立てられるよう、周囲と社会が支えるのが理想ですが、さまざまな事情により高齢出産となった方にはぜひ後悔しない選択をし、自信を持って子育てをしていただきたいです。

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