【医師監修】体外受精の費用やリスク、治療のスケジュールについて

近年、晩婚化の影響で、不妊治療をする夫婦が増えています。体外受精は不妊治療の一種ということは何となく知っているけれど、実際にどういった内容か分からない…という方が多いのではないでしょうか。費用が高そう…リスクはあるの?と、正しい知識がないために不安なイメージだけついてしまうこともあるかと思います。体外受精についての費用やリスク、流れについてまとめましたので、是非参考になさってくださいね。

体外受精の費用やリスク・妊娠の確率・流れやスケジュールについて

「赤ちゃんがほしい」と願っても、なかなか子宝に恵まれなく悩んでいる夫婦はたくさんいます。特に妊娠出産の高齢化に伴い、不妊治療を受けるカップルが多くなってきています。

不妊治療の内容は気になるけど、実際のところはどうなの?と本音を人から聞きにくいのもまた事実ですよね。不安もありますが、体外受精は妊娠率が高く不妊治療に革命をもたらしたといっても過言ではありません。ここでは、不妊治療の一つである「体外受精」について詳しくご紹介いたします。

不妊症

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。 日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。

不妊症は、10組の男女に対し1組の割合だと言われており、原因は、女性側にあるもの、男性側にあるもの、夫婦にあるものそれぞれ三分の一ずつです。一般的な不妊検査で異常がなくこれといった原因が特定できず原因不明なことも多いです。

しかしやはり女性の年齢による卵子の質の低下が最も重要です。精子も卵子も異常がないのに受精できないこともあったり、排卵があっても卵胞の卵子が変性していることもあったり、いずれにしても妊娠するプロセスの中で、何らかの障害があると想定されます。

一般的な不妊治療(ステップアップ治療)

まずは一般的な不妊検査を行い、その結果を見ながら手段を変えて治療を進めていきます。検査は血液中のホルモン測定、エコー検査、子宮卵管造影、AMH(卵巣年齢)などになります。男性は精液を採取して、精子の運動率や精子濃度、奇形率などチェックします。

一般的な不妊検査は生理周期に合わせて計画する必要があり、一連の検査に1〜2ヶ月かかるので、不妊治療を望む方は早めにクリニックへ相談することをおすすめします。

一般検査で異常が見つからなかった場合は「タイミング療法」(排卵日を予測して排卵日の少し前に性交渉を持ち妊娠の可能性を高める方法)をします。自己タイミングと比べて通院をすることで排卵のタイミングをより正確に知ることで妊娠率を高めます。

費用は数千円〜1万円ほどです。タイミング法で結果が出ない場合は、「人工授精」→「体外受精」へとステップアップしていきます。

「人工授精」は排卵日に精液を採取して、元気な精子を集めチューブで直接子宮内に送り届け、妊娠をサポートする治療法。男性側に不妊の原因がある場合に勧められる治療法でもあります。費用は一回に約1〜3万円ほどです。

このステップアップは、どのくらいで次の治療に進むかは年齢により様々ですが人工授精の目安は3~6回といわれています。

体外受精を行う必要がある場合

上記でご紹介した治療法のステップアップの仕方は、本当に人それぞれですが、更に以下の状態がある場合には早めに考えることをおすすめします。

  • 卵管性不妊(クラミジア感染による卵管閉鎖や卵管の周囲に癒着などがある場合)
  • 子宮内膜症
  • 排卵障害
  • 男性不妊(精子の数が少ない、奇形が多い、元気に動く精子が少ないなど)
  • 原因不明で長い年数、赤ちゃんができない
  • 卵巣年齢(AMH)が実年齢より高い

また、35歳以上の方は年齢とともに急速に卵子も老化し、妊娠率が低下していきますので、早めにステップアップを考えた方がいいでしょう。

年齢やかかる費用、何人子どもがほしいかなど、夫婦により様々な状況や想いがあるかと思います。通常の性生活をしている上でなかなか妊娠しない場合は、夫婦でそのことについて話し合い、早めに計画をたてましょう。

体外受精について

体外受精とは

女性の卵巣から卵子を取り出し、精子と体外で受精させ、数日間培養した後に受精卵を子宮に戻し、妊娠をサポートする治療法のことです。

専用の培養器と卵の発育に適した培養液の中で受精卵を育て、育った受精卵の中からいいものを選んで子宮に戻し、着床して妊娠となります。体外受精にもいくつかの段階や種類があります。

  • 体外受精・新鮮初期胚移植
  • 採卵後、2〜3日間、受精卵を培養した後に子宮に戻す方法。

  • 体外受精・新鮮胚盤胞移植
  • 採卵後5〜6日間ほど培養し、胚盤胞の状態まで受精卵を成長させてから子宮に戻す方法。

  • 凍結融解胚移植

採卵した後一時的に受精卵を凍結させ、次の周期以降にホルモン補充または自然の排卵周期に合わせて移植日を決定し子宮に戻す方法。

体外受精を成功に導く方法を以下にまとめました。

良質な卵子を育てるには

良質な卵子を育てるには薬をなるべく使わない自然に近い方法がいいでしょうか?

妊娠率を上げるため排卵誘発剤を使用して沢山の卵をとる「過排卵刺激法」というものがあります。成功率を上げるためには卵を沢山育てその中からいいものを選ぶことが重要です。排卵誘発剤は卵巣や体にほとんど負担は無く、排卵誘発剤を使ったからといって卵巣の機能が低下することもありません。

「自然周期のほうが体の負担が少なくいい卵が取れる」という情報は間違いです。また排卵誘発剤を使うと卵巣に残っている卵子の在庫が減ってしまうのではと心配をされる方がいますがこれも間違いです。排卵誘発剤を使おうと使うまいと毎月数百~1000個単位、つまり毎日20~30個のペースで卵子は減っていきます。

その減っていく卵子を育てて採卵しているのです。ですから排卵誘発剤を使って卵が多く取れる可能性のある方はまずは高刺激法で採卵を行うことを勧めます。

自然周期法と高刺激法を比べると妊娠に至る確立は高刺激法の方が高いという報告があります。ただし排卵誘発剤を使っても卵子が増えない方は自然周期法や低刺激法にせざるをえません。排卵誘発剤で卵子の質が悪くなるということはありません。

良好な受精卵を移植しても成功しないときは

不育症の血液検査、子宮に着床の妨げとなるような異常がないかを子宮鏡、子宮内膜の細胞の検査、子宮内膜着床能検査(ERA)などで調べます。

体外受精の治療スケジュールと妊娠までの流れ


体外受精に必要な行程は、刺激法や病院によって違いもあるようです。まずは事前に話を聞き診察を重ねた上で、治療を進める病院をじっくり選んでください。

女性のからだの周期に関わることですので、特に働きながら治療を進める女性は、会社のスケジュールを調整することも考慮しなければなりません。ここでは、体外受精の大まかなスケジュールをご紹介したいと思います。スケジュールは高刺激法の方が調整しやすくこれもメリットとなります。

1.排卵誘発剤(生理周期3日目~12日目頃まで)

生理3日目頃に来院して排卵誘発剤を投与し、卵胞を育てていきます。排卵誘発剤は飲み薬と注射薬があり、患者様の年齢やホルモン値の採血結果を考慮しながら、どのような排卵誘発剤を使用するか決めていきます。生理10~13日目頃、卵胞が育っているかを確認し、卵子を成熟させるためhCG注射または点鼻薬を使います。

排卵誘発方法

排卵誘発法には、「完全自然周期法」「低刺激法」「中刺激法」「高刺激法」などがあり、ホルモン値、年齢、過去の不成功例などを元に、患者様に合わせて使い分けます。また同じ方法でも、薬品の種類や量、投与のタイミングを変えることで、患者様に合ったオーダーメイドの不妊治療が可能であり、バリエーションも豊富です。

高刺激法
・アゴニスト法
・ショート法
・ロング法
・ウルトラロング法
・アンタゴニスト法  
・HMG-MPA法

低~中刺激法
・クロミフェン
・レトロゾール
・エストロゲンリバウンド

完全自然周期

それぞれの方法により費用やスケジュールも異なってくるため、医師と相談しながらご自身の状況に合わせ、ベストな方法を選ぶようになります。
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2.採卵(生理11日目~14日目頃)

卵胞をエコーでチェックして大きさが18mm以上になれば、hCG注射または点鼻薬をして約36時間後、排卵直前まで育った卵子を卵胞から取り出します。採卵日、当日朝に男性側も採精(射精してから2時間以内のもの)し、精子は運動性のいい元気なものを処理して集め受精に用います。

採卵時の痛みについて

細長い針を用いエコーで卵巣を見ながら卵胞を刺し、卵子を吸い上げます。針を刺すので採卵のとき痛みはあります。麻酔には局所麻酔と静脈麻酔があり、静脈麻酔をすると眠った状態のまま採卵は終わります。

また、採卵後すぐに帰宅をご希望であれば無麻酔または局所麻酔で採卵する方もいます。また麻酔を全くしない施設もあり、卵胞の数によって麻酔をするか決める場合もあります。

3.受精(排卵日当日)

受精方法

受精方法は2種類に分かれます。

  1. 養液を入れたお皿の中に、卵子と精子を入れて受精させる「媒精」方法
  2. 針のような細長いガラス管で精子を卵子に直接注入する「顕微受精」という方法

顕微受精は、精子の状態が良くない場合や、受精に何らかの障害がある場合に適用されます。どちらの方法でも翌日、正常に受精したかを確認します。

4.培養(採卵の2日~7日後)

受精卵は培養液のなかで分割を進めながら発育していきます。

5.移植(採卵から2日~5日後)

培養した(発育した)受精卵を子宮内に戻します。

移植方法

細いカテーテルを膣から子宮に入れるのですが、ほとんど痛みもなく数分ほどで終わります。移植後は直ぐに帰宅でき仕事に戻ることができます。また最近は、採卵した周期で受精卵を子宮に戻さず一旦、すべての受精卵を凍結させて、次の生理周期に移植することが多くなりました。

移植方法は、自然の排卵周期に合わせて戻す方法とホルモン剤を使い子宮内膜を育てて戻す方法があり状況に合わせて使い分けます。これもベストな方法を医師とご相談ください。

6.妊娠判定(採卵日から約2週間後)

移植日の約2週間後に妊娠の判定をします。妊娠判定は血液検査か尿検査で行います。

仕事をしながら体外受精の治療は可能なのか


仕事をしながら不妊治療を考えている女性は多いかと思います。もちろん、仕事をしながら体外受精の治療は可能です。ただ、「平日は何日ぐらい休みが必要?」「どのくらいの期間かかるの?」と体力面の不安を感じるのはもちろんのこと、仕事のスケジュールの調整も気がかりになりますよね。病院に来院する大まかなスケジュールは以下を参考になさってください。

  1. 初診日 生理開始3日目ぐらいまで
  2. 生理3日目から11日目ぐらいまで この期間は排卵誘発剤の注射または飲み薬を飲んで超音波で卵胞のサイズを2~3日毎にチェックします。
  3. 採卵日 採卵日は麻酔をした場合、一日仕事を休むことを勧めています。
  4. 胚移植日
  5. 妊娠判定日

このように一度の体外受精の周期で5~7日ほどの受診が必要になりますが、採卵日以外それほど診察に時間はかかりません。採卵後はすぐに通常の仕事に戻る方もいらっしゃいますが、激しい運動などは控えた方がよいとされています。

体外受精の費用

体外受精にかかるおおまかな費用

体外受精は保険が適用されないので、全て実費支払いとなります。採卵、移植など様々な方法がありますので、どの方法を選ぶか、どの薬剤を使うかにより費用も変わってきますが、だいたい40~60万円かかり他の不妊治療と比べると高額です。あくまでも目安ですが、各治療内容の費用をご紹介いたします。

  • 体外受精(薬・超音波・血液・採卵・移植含む):約30~40万円
  • 培養:5~10万円 培養は初期胚までと胚盤胞まで培養する場合で費用が異なります。
  • 胚凍結:年間で保存料は3~5万円/本 凍結する個数が増えれば費用が掛かってきます。
  • 凍結融解胚移植:約10万円  ホルモン補充での胚移植の場合は薬代が別途必要です。

体外受精は1回で妊娠するとは限りません。余計なストレスを感じる部分にもなりますので、夫婦でよく相談しながら計画していきましょう。

助成金

自治体によって助成金が設けられ、不妊治療の費用の一部を負担してもらえる制度があります。現在、助成金は1回につき15万円となり、地域によっては条件が満たされている場合は初回の助成金が30万円にあがります。(平成28年1月20日以降に治療が終了した特定不妊治療から)また、15万円の場合1年間で受けられる助成金の最高としては、

  • 治療開始年齢が40歳未満の場合は6回なので15万円×6=90万円
  • 治療開始年齢が40歳以上43歳未満の場合は15万円×3=45万円

となります。ただし、これは通算になりますので一気に受けてしまいますとそれ以上受けられなくなるので注意が必要です。また、助成金は43歳以上の方は受けることができません。

費用面で助かると、気持ち的にとても楽になると思います。助成金のもらえる条件や注意点など、自治体のホームページや直接問い合わせをし、早めに知っておくと計画を立てやすいですね。

体外受精で妊娠する確率

体外受精で妊娠する確率

体外受精によって妊娠に成功する確率は約20~40%と言われているようです。これは、病院によって大きく異なりますし、年齢と共に低下します。安易に成功率のみを頼りにせず、自分たちの選んだ病院、医師を信じ、進めていきましょう。

双子が生まれる確率

体外受精では、妊娠率を高めるために、赤ちゃんの元となる受精卵を複数移植することができ、2個以上の受精卵が着床する多胎妊娠の確率が高いと言われています。過去の統計では、体外受精や顕微受精で双子を妊娠する確率は15~20%でした。ただ、日本産婦人科医学会が、「体外受精で移植する受精卵は原則1個とし、ただし35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性については、2胚移植を許容する」と定めたため、現在では双子を妊娠する確率も減少しているようです。

多胎妊娠の可能性としては自然妊娠でも同じことが言えますが、単胎に比べて非常にリスクが高く妊娠出産に関しては様々な知識を事前に知っているか知らないかでは、心構えが大きく変わってくるかと思います。

体外受精のリスク


多くの人が不安に感じることは「流産しやすい?」、「赤ちゃんに障害が出やすい?」といったことではないでしょうか。体外受精が直接的な原因で「流産率が上がる」、「ダウン症などの染色体異常のリスクが高まる」、「奇形をもって産まれやすい」といった医学的な報告はないようです。

ただし、高齢出産の場合は、自然妊娠と同じように、体外受精でも流産や染色体異常の確率が上がることは報告されています。上記でご説明したように、体外受精は「ステップアップ治療」を進めていくことにより、結果的に高齢出産になる傾向があり、そのため体外受精で妊娠するとリスクが高まるというイメージを持つことになるのでしょう。体外受精のみならず、自然妊娠であっても流産や障害の可能性はあるため、ここでは体外受精独自のリスクをご紹介いたします。

卵巣過剰刺激症候群

過排卵刺激法では排卵誘発剤により卵巣が刺激され張れて卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という状態になることがごく稀にあります。

自覚症状としては、腹痛、吐き気、呼吸が苦しくなる、急な体重増加、尿量が少なくなるなど、重症化すると腹水や胸水が溜まります。症状が酷い場合は入院が必要となる場合があります。

だだし、最近はOHSSになりそうな方には排卵誘発剤の注射の量を少なくする、新鮮胚移植をしないで凍結する、OHSSを予防する薬を飲むといった対策により入院が必要となることは滅多になくなりました。

多胎妊娠によるリスク

体外受精は、複数の受精卵を移植することで起きる多胎妊娠(双子)が多いと言われています。多胎妊娠になると、早産、妊娠高血圧症候群などの合併症を引き起こすリスクが高くなります。

採卵時の出血・感染

採卵の際、経膣エコーで卵巣を確認しながら卵胞に針を刺すため膣と卵巣から出血が起こります。通常出血は自然に止まりますが、出血が多量になると輸血や開腹手術の必要性が出てきます。ごく稀に、採卵時に細菌がお腹の中に入り込み骨盤内感染を引き起こすことがあります。感染の予防に採卵後は抗生物質を飲みます。

体外受精の際、トラブルとなることは滅多にありませんのでリスクは心配されないでください。体外受精を進めていく中で不安や疑問があれば、担当医師にすぐ相談し、少しでもストレスのない状態で治療を進めていきたいですね。

不妊治療はいつまで続けるのか

近年、結婚しても働く女性が増え、晩婚化が影響し、不妊治療を受ける夫婦が増加しています。女性の年齢が大きく関わってくるので、妊娠までに長い年月がかかってしまう夫婦も多いでしょう。

不妊治療をステップアップし体外受精を試みても、必ずしも妊娠すると保証されているわけではありません。いつまで続けたら良いかどういうタイミングで不妊治療を終えたら良いか、「治療の止めどき」というものは、それぞれの夫婦の考え方があるかと思います。

何度も繰り返し精神的に追い詰められることが悪循環にもなりますので、治療中でも気分転換のため夫婦だけで旅行を楽しんだり夫婦で向き合う時間を作ってみてはいかがでしょうか。ただし治療はできるだけ休まずに続けるべきです。

考えを切り替えるのは非常に難しいことですが、妊娠・出産が人生の全てではありません。これからの長い人生、パートナーとどう過ごすか、立ち止まって考えてみることも大切です。

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