超高齢社会が進み、増え続ける医療費が社会問題化されている中、病院も無駄をなくして能率の向上を図り、医師や看護師の負担を軽減することが求められています。医師や看護師が医療業務に専念できるようにとサポートする目的で配置されたのが、病棟クラークです。病棟クラークの具体的な仕事内容とともに医療事務や看護助手、医師事務業務補助との違いについて紹介していきます。
病棟クラークの仕事内容とは
病棟クラークの「クラーク(clerk)」とは事務員という意味です。このことからわかるように、病棟クラークとは医師や看護師が医療業務に専念できるように、事務業務を行いサポートすることが仕事になります。入院施設がある病院では、おおむね病棟ごとに一人配置されることが多いようです。病棟クラークは、医師や看護師とは違うため、医療行為はできません。
主な仕事内容4つ
病棟クラークの仕事は、ナースステーションに常駐して、さまざまな事務業務を行い、医師や看護師のサポートをすることです。業務内容は病院の規模や配置される科によって異なりますが、一般的な業務内容として大きく4つに分けられます。
- 患者様の退院業務
- 患者様の入院業務
- ナースステーションでの事務作業
- 他の科との連係やその他の事務作業
■退院予定の患者様の退院手続きについて担当医師へ確認し、医事課の会計担当者へ申し送りをして清算の準備を行います。
■入院予定の患者様へ入院に関する説明をし、担当医師へ必要のある検査の調整やカルテの準備などを行います。
■緊急入院の必要がある患者様の入院受け入れ準備を行います。
■病室につけるネームプレートの作成をします。
■面会者の応対や案内をします。
■患者様やご家族からの質問を看護師や医師に伝えます。
■外線電話の応対し取次や転送をします。
■検査結果の整理とデータ管理をします。
■患者様の次回診察予約の確認をします。
■患者様の食事の食べ残しを確認して書類に記入します。
■薬剤や診療器具など検査や診察で使うものの準備と片付けをします。
■検査や手術などの日程管理をします。
■患者カードや入院台帳の整理をします。
■医療用の備品や消耗品の手配をして管理します。
■各病棟や他の診療科と連絡して、伝票、薬剤などを届けます。
病棟クラークの気になる給料はどのぐらい?
病棟クラークの給料は、正社員、派遣社員、契約社員なのかで金額が変わってきます。 正社員だと、月収は約15万円~25万円になることが多く、派遣社員や契約社員の月収は約15万円前後が多くなります。パートだと時給1,000円辺りのようです。
病棟クラークに向いている人3つ
- しっかりとした接客スキルを持っている人
- コミュニケーション能力がある人
- 配慮のある人
入退院の説明やご家族への応対、外線電話の応対など人とかかわることがたくさんあります。そのため、しっかりした接客ができる人が向いていると言えます。
医師や看護師から処置の記録を医事課へ報告したり、検体などを検査部門に回したりと他部門と連係をとる仕事なので、コミュニケーション能力が必須になります。
不安を抱えている患者様に対して、気遣いの声掛けなどができる細かな配慮がある人が向いているでしょう。
病棟クラークになるには資格が必要なの?
病棟クラークになるための資格は必要ありませんが、知識がいる仕事です。働く場所が病院なので、診療報酬や医療制度の知識などについて、事前に勉強しておいたほうが有利になるでしょう。病棟クラークになるために有利になる民間の資格3つを紹介します。
持っていると有利になる可能性がある資格3つ
- 医療事務技能審査試験
- 医師事務作業補助技能審査試験
- 療秘書技能検定試験
一般財団法人日本医療教育財団主催の「医療事務技能審査試験」に合格することができると「メディカルクラーク」の称号を得られます。窓口業務や診療報酬請求事務業務など、医療事務職としての能力を証明することができます。
一般財団法人日本医療教育財団と公益社団法人全日本病院協会主催の「医師事務業務補助技能審査試験」に合格すると「ドクターズクラーク」の称号を得られます。医療文書の記載や診療記録など、医師が行う事務業務をサポートする医師事務業務補助業務としての能力を証明することができます。
一般社団法人医療秘書教育全国協議会主催の「医療秘書技能検定試験」は、医療秘書としての技能と専門知識を認定する試験です。1級から3級まであり、就職時に習得レベルをはっきり示すことができます。
資格を取得できる大学・専門学校に通う場合
医療事務関連の資格を取得するための方法は、通信制教育や独学、専門学校、短大、大学などがあります。採用する側である病院は、知識はもちろんのこと、即戦力のある人を求めています。そのため、学校で高度な知識や現場で必要とされる臨機応変な対応等を修得して資格取得をすると、採用されるための近道と言えます。
また、学校で学ぶメリットとしては、授業の一環で病院実習やインターンシップなどがあることです。これらは実際の病院で研修できるので、業務の中で働き方を覚えて実践力を修得することになります。ただし、インターンシップや病院実習の有無、カリキュラムは学校によって異なりますので、入学前によく調べる必要があります。
- 4年制大学
- 短期大学
- 専門学校
- 通信教育
病棟クラークを目指せる私立大学は、全国で10校あります。学部は「医療保健学部」「薬学部」「医療福祉マネジメント学部」などがあります。病棟クラークになるために大学で学ぶのではなくて、福祉・医療など多方面から知識をつけて、興味があれば病棟クラークの資格も取得することができるということです。病棟クラークに興味があるという人には、大学で医療についてさまざまなことを学ぶのをおすすめします。
病棟クラークを目指せる私立の短期大学は、全国で16校あります。学べるコースは、「医療事務・秘書コース」「医療事務コンピューターコース」「医療事務ドクタークラークコース」などです。卒業後は、病院や歯科医院で活躍できる医療事務スタッフや医療秘書だけでなく、各種関連企業の一般事務に就くことも可能です。病棟クラークだけでなく、他の医療スタッフにも興味がある人におすすめです。
病棟クラークを目指せる専門学校は、全国に142校あります。学べるコースは「医療秘書科」「医療事務コース」などがあります。病棟クラークになりたいと目標がはっきり決まっている場合は、専門学校でより実践的に学ぶことが効果的と言えます。カリキュラムは資格取得することを重視した内容で、実習時間も多めになっているので、より実践力を身に付けることが出来るでしょう。
通信講座でも学ぶことできます。受講するコースは「医療事務講座」や「メディカルドクタークラーク講座」などです。メリットとして受講修了者には就職支援制度があるので、就職先を紹介してもらえる可能性があります。
病棟クラーク・医療事務・看護助手・医師事務作業補助との違い
病棟クラークと同様に病院内で働く仕事で、医療事務や看護助手、医師事務業務補助などがあります。全てに共通することは、医師や看護師のような医療業務は行うことはありません。それでは、業務内容にどのような違いがあるのでしょうか?業務内容の違いについて紹介します。
医療事務とは
病棟クラークと医療事務の大きな違いは、常駐する場所の違いです。医療事務は病院の会計窓口で事務業務を行います。一方、病棟クラークは主にナースステーションで事務業務を行います。
医療事務の主な仕事内容は、会計窓口で金銭授受や医療報酬の明細書を作成することです。
看護助手とは
病棟クラークとの大きな違いとして、看護助手は事務業務を行わないことです。看護助手の職場は病棟で、看護師のサポートや患者様の身の回りのお世話をします。書類作成などの事務業務は基本的には行いません。
看護助手の主な仕事内容は、看護師のサポートと患者様のお世話をすることです。手術機材の管理や医療器具の滅菌作業、食事の配膳、排せつ補助、診察の介助など、看護師をサポートする業務と患者様のお世話をします。
医師事務作業補助者とは
医師事務業務補助は、医師が診察に専念するために事務業務を行います。医師事務作業補助者は、医師以外の指示によって動くことが認められていません。医師事務業務補助者は、医師の指示により事務業務を行うので、看護師のサポートや入退院時の書類の確認や外線電話の応対、窓口業務を行うことはありません。
医師事務業務補助者の主な仕事内容は、医師の指示により診断書などの文書作成を補助したり、電子カルテの代行入力を行うことです。
参考:厚生労働省 医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について
病棟クラークのやりがい・辞めたいと感じるときとは
病棟クラークとしての3つのやりがい
病棟クラークとしてのやりがいとは、具体的にどんなものがあるのでしょうか?病棟クラークのやりがいを3つ紹介します。
- 人のために働くことができる
- コミュニケーションスキルが上がる
- 身に付けたスキルで全国の病院で働くことができる
患者様と直接接する仕事なので、感謝の言葉を聞くことが多くなり、人の役に立てたという実感を得られることができます。
医師や看護師、患者様の間に入って仕事をすることになりますので、仕事を通して自然とコミュニケーションスキルを高められるでしょう。
病棟クラークの知識や経験は、他の病院でも通用するスキルとなるでしょう。出産や子育てなどで一旦仕事をやめても再就職しやすいと言えます。病院は全国にあり、同じような業務内容なので、引っ越しした先で病棟クラークの職を探すことは難しくないでしょう。
病棟クラークを辞めたいと感じる3つの瞬間
病棟クラークはやりがいがある仕事ですが、つらくなる時はどんなときでしょうか?
- 同僚が少ないため仕事の悩みを相談しづらい
- 休みが取りづらい場合がある
- 人間関係で板挟みに合う可能性がある
病棟クラークは各病棟におおむね一人しか配置されないため、同僚と呼べる人は少ないです。同じ職場に同僚がいないと、仕事について相談したり、つらさを共感するなどの機会を持つことができなくなるため、辞めたいと感じる可能性があります。
病棟クラークは人数が少なく分担しづらい業務のため、休みのシフトを組みづらい場合があります。
病棟クラークは、医師や看護師の間で連係をとりサポートする仕事なので、人間関係で悩まされることが考えられます。患者さんもいろいろな人がいるので、言葉がきつい人やクレーマーのような人もいることでしょう。さまざまな人とかかわる仕事だけに、人間関係をストレスとして感じて、つらくなることがあるかもしれません。
病棟クラークは高い人間性が求められる仕事
病棟クラークは、医師や看護師、医療関係者、そして患者さんやご家族など、さまざまな人と接しながら仕事をします。入院予定の患者様には、入院や検査についてのわかりやすい説明をし、面会に来られたご家族の応対や案内など、接客スキルや気配りが必須です。コミュニケーション能力も欠かせることができません。
また、医師や看護師が医療業務に専念できるようしたり、病院全体が効率よく仕事を進めていけるようにしたりと、病棟クラークの存在は大きいものです。病棟クラークは、医師や看護師と患者さんを取り持つ役割をしているので、知識とともに高い人間性が求められる仕事であると言えます。