転職活動は思った以上にお金がかかります。リクナビnextのアンケート結果では、退職後に転職した場合の費用平均は約71万円でした。この時に経済的に強い味方になってこれるのが失業保険です。失業保険は自分でハローワークで申請しなければ受け取ることができません。そこで退職時に慌てず、賢く失業保険を受給するために確認しておきたいことを紹介します。
失業保険の基礎知識
失業保険とは
会社を退職した時に心強い味方になってくれるのが失業保険です。会社を解雇された時や、転職を考えて会社を辞めようと思った時に心配になるがお金のことではないでしょうか?もし失業してしまった時に雇用保険に加入していれば失業給付(失業手当)という形でお金を受け取ることができます。このことを失業保険といい、公的保険制度の1つです。
失業保険の目的
失業保険には2つの目的があります。まず一つ目は、失業中の生活を支えることです。会社を辞めるとお給料が貰えなくなってしまい、生活ができなくなることを防ぎます。二つ目は再就職活動に集中できるようにすることです。
失業中に生活費を稼ぐためにアルバイトや単発の仕事をせざる得ない人もいます。そのような状況だと思ったように再就職ができず、失業状態が長く続いてしまう可能性もあるため、失業保険が存在します。
失業保険はパートでも受給可能
失業保険は会社員だけが受給できる訳ではありません。パートでも雇用保険に加入し、要件を満たしていれば受給することができます。パートの場合は1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上引き続き雇用されることが見込まれるという条件をクリアできれば、正社員と同様の条件で基本手当を受給することが可能です。
失業保険を受給要件
退職理由によって要件が変わる
失業保険を受給するためには在職中に雇用保険に加入していなければいけません。退職日からさかのぼり、2年間のうち通算して12ヶ月以上の加入期間が必要です。ただし、退職理由によっても要件が変わります
【自己都合の退職の場合】
正当な理由なく労働者側が退職を申し出て、離職した場合は自己都合の退職に該当します。正当な理由なしというのは転職や起業を目的で会社を退職することです。そのため自己都合の退職の場合は受給要件は、
- 離職日以前の2年間に、被保険者期間が1年以上あること
- 待期期間7日間満了後、さらに3ヶ月の給付制限期間があること
上記の2点が受給要件です。
また自己都合の退職の場合でも正当な理由がある場合は、受給要件が下記のように緩和されます。
- 離職日以前の1年間に、被保険者期間が6ヶ月以上あること
- 7日間の待期期間を満了すること
ここでいう正当な理由とは労働できないなんらかの事情により、会社側の解雇ではなく、自ら離職する場合のことです。例えば体力不足・心身障害などにより業務遂行が困難になった場合や、父・母の扶養介護が必要になったなどです。
また、結婚などで住所が変更になり、会社への通勤が困難になったなどの場合も特定理由離職者に該当します。このように特定理由離職者の条件を満たしているのであれば、ハローワークでの初回手続きの際に、必ず正確な退職理由を担当者に伝えます。申し出た内容で受給要件を満たしているかどうか判断されるため、該当する場合は必ず申告しましょう。
【会社都合の退職】
会社都合によって退職した人は特定受給資格者と言います。特定受給資格者に該当した場合は雇用保険の加入期間は通算で通算6ヶ月以上と受給要件が緩和されます。
会社が倒産したり、会社の事業縮小にともない大量の離職者(1ヶ月で30名以上、または労働者の1/3以上)が発生した場合だけでなく、労働契約が実際の内容と大きく異なっていた場合、賃金の未払いや賃金が85%未満に低下した場合も特定受給資格者に該当します。
また上司や同僚からパワハラ・セクハラを受けていたり、退職前3ヶ月間に月45時間を超える残業をしていたなどの労働環境を理由に退職した場合も該当する可能性があります。このように特定受給資格者の要件は色々とあるため、申請時にハローワークで確認しましょう。
【そのほかの理由】
定年退職や更新予定のない有期雇用契約の満了等、自己都合でも会社都合でもなく、あらかじめ合意していた場合の退職です。この場合の受給要件は、
- 離職日以前の2年間に、被保険者期間が1年以上あること
- 7日間の待期期間を満了すること
このように退職理由によって受給要件が異なります。そのため失業保険の手続きをする場合は事前に確認をしましょう。
いつでも働く意思がある
失業保険の目的の一つは失業中に再就職活動ができる環境を作ることです。そのためいつでも働こうという意思があることが受給要件になっています。ここでいう働く意思がある状態とは、
- 就職したという積極的な意思(気持ち)がある。
- いつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境)がある。
- 積極的に求職活動を行っているが就職できないでいる。
そのため一つでも該当しない項目があれば、失業状態でないため受給することができません。つまり失業保険は退職したら受給できるものではありません。
失業保険の手続きの流れ
手続きに必要なものを準備する
まずは手続きに必要なものを順番に見ていきましょう。
- 離職票-1と離職票-2
- マイナンバーの分かるもの
- 身分証明書(免許証など)
- 写真(縦3cm×横2.5cm)2枚
- 印鑑
- 預金通帳またはキャッシュカード
離職票-1と離職票-2は会社が作成します。離職票-2には在籍していたときの月額給与、退職理由が書かれています。受給金額が在職時の月額の給額をもとに計算されます。離職票-2は会社によっては発行してもらうように依頼しないと発行してもらえない場合があります。そのため退職前後に発行してもらえるかどうか確認しましょう。
マイナンバーがわかるものは、マイナンバーカード、通知カード、マイナンバー記載の住民票です。マイナンバーカードがあれ③の身分証明書が不要です。マイナンバーカードは別途交付申請が必要です。そのため通常の場合は通知カードで行うケースが多いでしょう。
運転免許証、運転経歴証明書、官公署が発行した写真付き証明書のいずれか1点、または、健康保険証、児童扶養手当証書などから2点です。
直近3ヶ月に撮影したもので、正面上半身が映っていなくてなりません。同じものが2枚必要です。
書類への捺印や訂正印として利用します。原則シャチハタは不可です。
給付金の振込口座の預金通帳またはキャッシュカードを準備します。振込先にネットバンクや外資系の銀行は利用できません。
ハローワークに手続きに行く
必要な書類が準備できたら、自分の住んでいる地域を管轄するハローワークに手続き
に行きます。手続きの流れは下記の通りです。
- 求職申込み
- 離職票の提出及び受給資格の判定
- 受給説明会の日時決定
失業保険の受給要件には働く意思があることが必須です。ハローワークで求職の申し込みをすることで働く意思があることを証明します。
会社から受け取った離職票を提出します。離職票-2の退職理由をもとに失業保険の受給資格を判定します労働者の個人的な事情による退職にチェックが入っている場合は、離職者からの申し出がない限り、ハローワークでは自己都合退職として処理します。
そのため特定理由離職者の条件を満たしているのであれば、この時点でその旨を伝えましょう。申し出により特定理由離職者に該当するか判断されます。そのため少しでも該当する可能性があれば、初回の申請手続きの時に忘れずに申告しましょう。
受給説明会とは失業保険の受給が認められた人が参加する説明会です失業保険の受給を受けるなら必ず参加しなければいけません。
受給説明会に参加する
受給説明会は失業保険の給付を受けるために必ず参加しなければいけません。受給説明会では受給に関する注意点、求職活動に関すること、受給するための流れなどの説明があります。説明会の後に雇用保険受給資格者証と失業認定申告書が交付されます。この時に失業認定日が決定します。自己都合退職の人は3ヶ月後、会社都合退職の人は1ヶ月後から失業認定日がスタートします。
失業認定日にハローワークにいく
失業認定日には必ずハローワークに行きます。ここで失業認定申告書を提出し、失業認定を受けます。失業認定申告書には、求職活動の実績や、収入があった場合はその旨を報告します。失業と認定されるためには所定の求職活動を行なったという実績が必要です。
失業保険における失業は、就職しようとする気持ちと、いつでも就職できる能力があり、積極的に就職活動を行っているにも関わらず、職業に就くことができない状態です。そのため失業保険を受給するためには求職活動をしている実績が必要です。実績として認められる求職活動には、
- 求人企業への書類の送付や面接への応募
- ハローワークが実施する職業相談、職業紹介、各種講習、セミナーへの参加
- ハローワークに認可されている民間職業紹介事業者、労働派遣事業者、地方公共団体などが実施する職業相談、職業紹介、各種講習、セミナーに参加
- 公的機関が行う職業相談、職業紹介、各種講習、セミナー受講などに参加
- 再就職に資する各種国家試験や検定などの資格試験の受験
これらの活動が求職活動として認められます。新聞やネット、ハローワークなどでの求人情報の閲覧しただけや、知人への紹介依頼などは求職活動としては認められません。また求人企業への書類の送付や面接への応募などの求職活動の実績に関してはハローワークが応募先企業に応募の事実確認をする場合があります。
また失業認定を受けるためには、認定対象期間内に原則2回以上のこれらの求職活動の実績が必要です。認定対象期間は前回の失業認定日から今回の失業認定日の前日までの期間で基本的に28日間と定められています。この28日間の間に2回は求職活動を行う必要があります。
給付金を受け取る
失業認定を受けた5日後に指定口座に失業給付金が振込されます。おおよその目安ですが、ハローワークで手続きを行ってから自己都合の退職の人の場合は3ヶ月+2週間くらい、会社都合退職の人は1ヶ月+2週間くらいで最初の給付金を受け取ることができます。
給付期間は再就職が決まるまで、もしくは給付日数の上限を超えるまでは月1回の失業認定を受けタ後に給付金を受け取ることができます。
失業保険ではいくらもらえるの?
失業保険の給付金額の計算方法
失業保険の給付金額は退職前の給与額や退職理由、退職時の年齢によって変わります。自分で計算することも可能ですが、複雑な計算式を使うためハローワークで確認するのが一番いいでしょう。
【退職前6ヶ月前の給与額によって支給額が変わる】
失業保険の給付金は基本手当日額をもとに決まります。基本手当日額は離職票-2の、「賃金額の計」を上から順に6ヶ月分(勤務日数が11日以上/月)を足し算します。パートなどの場合は11ヶ月の勤務日数が11日間に満たない場合は、最大2年間までさかのぼって、11日以上ある月で計算をします。
次に、算出した金額を180で割ります。この金額を賃金日額と言います。この賃金日額に対して年齢ごとに定められている給付率という係数をかけて算出します。賃金日額には年齢に応じた下限額と上限額があり、給付率は年齢と賃金日額に応じて、45%~80%の範囲で決まります。
失業保険の給付期間
【自己都合の退職の場合】
自己都合の退職の場合は雇用保険の加入期間によって受給期間が変わります。また自己都合の退職の場合は待機期間の後、3ヶ月間の給付制限が設けられます。
被保険者であった期間 | ||
---|---|---|
1年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
90日 | 120日 | 150日 |
【会社都合の退職の場合】
会社都合退職とは、倒産・解雇など、会社側の都合により労働契約を解除させられることです。そのため自己都合の退職に比べると手厚くなっています。会社都合によって退職した場合は特定受給資格者言います。また特定理由離職者の場合も同様に手厚い保護を受けることができ、3ヶ月間の給付制限もないため待機期間後すぐ給付を受けることができます。
被保険者であった期間 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 5年未満 | 5年以上 10年未満 | 10年以上 20年未満 | 20年以上 | ||
離職時年齢 | 30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | ー |
30歳以上 35歳未満 | 90日 | 120日 (90日(※補足2)) | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上 45歳未満 | 90日 | 150日 (90日(※補足2)) | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上 60歳未満 | 90日 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上 65歳未満 | 90日 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
※補足2 「特定理由離職者」に該当する方のうち下記「特定理由離職者の範囲」の1.に該当する方については、受給資格に係る離職の日が平成21年3月31日から平成34年3月31日までの間にある方に限り、所定給付日数が「特定受有者資格」と同様になります。
再就職が決まったら
再就職手当の手続きをしよう
再就職が決まった場合、再就職手当を受け取ることができる場合があります。再就職手当とは失業保険の給付日数を1/3以上残して、安定した職業に就き、要件をすべて満たしている場合に、本来受給できるはずだった残りの失業保険の一部を一括で受け取ることができる制度です。新しい仕事を始める時は何かと物入りのため要件に該当するのであれば手続きをしましょう。
再就職手当を受け取れる要件
再就職手当を受け取ることでできる要件は下記の通りです。該当するか判断できない時はハローワークへ確認しましょう。
- 就職日の前日までの失業保険の支給残日数が、所定給付日数の1/3以上あること
- 1年を超えて勤務することが確実であると認められること
- 待機満了日後の就職であること
- 自己都合退職などで給付制限がある場合には、待機満了後の1ヶ月については、ハローワークまたは許可・届け出のある職業紹介業者の紹介による就職であること
- 退職前の雇用主に再び雇用されていない
- 就職日前3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けていないこと
- 受給資格決定(求職申込み)前から採用が内定していた事業主に雇用されていないこと
- 原則、雇用保険の被保険者要件を満たす条件での雇用であること
- 就職したあとすぐに離職していないこと
これらの要件に該当するかは個人では判断が難しいため、再就職が決まったら早めにハローワークで確認しましょう。
再就職手当の計算方法
再就職手当で受給できる金額は、自分の所定給付日数が1/3以上残っている場合には支給残日数の50%、2/3以上の日数が残っている場合には支給残日数の60%を基本手当日額に掛けた金額を受け取ることができます。ただし、基本手当日額は上限5850円(60歳以上65歳未満は4740円)です。このように早く再就職が決まれば、それだけ再就職給付金の金額が増えます。
再就職手当の手続き方法
【就職日前の手続き】
再就職が決まったら、就職日(勤務開始日)の前日までにハローワークに就職の報告をしましょう。失業保険は就職日の前日まで受け取ることができるため、このときに失業認定も同時にします。手続きの時には、雇用保険受給資格者証、失業認定申告書、採用証明書等を持参します。
ただし再就職をしたことを証明する採用証明書等は会社によっては実際に勤務してからでなければ書いてくれない場合もあるため、その時はその旨を手続きの時に伝え、就職後に提出します。再就職手当の条件に当てはまる方には再就職手当ための支給申請用紙が渡されます。
【就職日以降の手続き】
再就職手当の支給申請用紙は、就職日の翌日以降にしか提出できません。就職日から1ヶ月過ぎてしまうと申請できなくなってしまうため早めに提出しましょう。ハローワークは基本的に土日・祝日は空いてませんので、再就職手当支給申請書の提出は郵送でもOKです。
【再就職手当が振り込まれる時期】
申請書を提出した1ヶ月後に支給に関する調整が行われます。調査の結果問題なければ、支給決定通知書という書類が届き、そこから1週間ほどで口座にお金が振り込まれます。
失業保険の給付を受ける時に注意したいこと
働きたくない人や働けない人は対象外
失業保険の失業は「就職したくて活動をしているけれど、企業に採用されない状態」のことです。働きたくない人や働けない人は失業保険の受給要件に該当しないため、失業保険の給付を受けることができません。
不正受給に該当する場合
失業保険の受給資格がないのに失業保険の給付を受けた場合不正受給に該当します。雇用保険被保険者離職票や求職申込書などハローワークに提出する書類には、事実を正確に記入する義務があります。そのため、虚偽の内容を記載した場合は詐欺罪に該当する可能性があります。
例えば、
- 求職活動していないのに、失業認定申告書に虚偽の実績を書いて虚偽の申告した場合
- パート、アルバイトなどで収入を得たが。その旨を失業認定申告書に記載しない場合
- 内職や手伝いをして得た収入を隠したり、過少を偽った申告をした場合
- 自営を開始したにも関わらず、その事実を申告しない場合
このような場合は不正受給に該当する可能性があります。そのため申告内容や記載内容に関して疑問があればハローワークで確認しましょう。もし不正受給に該当した場合は不正を行ったと認定された日以降、失業保険は一切支給されなくなったり、不正受給した金額については即刻全額返金を求められるなどの処分を受けます。
就労と見なされるアルバイトについて
失業認定中はアルバイトをしてはいけないと思っている人が多いですが、そのような決まりはありません。アルバイトをしても問題ありませんが、必ずハローワークへ申告しましょう。
しかし、注意したいのが失業保険の手続きをした7日間の待機期間中は、原則アルバイトはしてはいけません。もし待機期間中にアルバイトをした場合は失業認定がされず、以後の失業給付は受けられなくなります。受給期間中にアルバイトをした場合はアルバイトをした日数を申告します。それにより申告した日数分の給付金を差し引いた金額が支給されます。差し引かれた分は給付期間が切れた後に先延ばしされます。
またハローワークでアルバイトと認められる日数は月に14日未満、かつ週に20時間未満、4日未満が基準です。それを超えてしまうと雇用保険の加入対象になるため、就職扱いになり、失業保険の受給対象外になります。
賢くお金を受け取って、安心して転職活動をしよう
失業保険は退職後の転職活動を安心して行うため公的保険制度です。自分で申請しなければ受け取ることができません。転職活動の時は思った以上にお金がかかります。そのため経済的不安を無くして、転職活動を集中して行うためにも事前に確認をしておきましょう。